こんな方にオススメの内容!
- アジャンター石窟寺院とはなにかを知りたい!
- アジャンター石窟寺院が世界遺産登録された理由が気になる!
- どのようにして石窟寺院が誕生したのか歴史ついて詳しく知りたい!
- 教養として世界遺産に関する知識を身につけたい!
- 世界遺産検定の受験を考えている!
- インドへの旅行を考えている!
遺産ポイント
- インド最古の仏教壁画が残されている仏教専門の石窟寺院
- かつて存在したインドの王国グプタ朝の最盛期に多くの寺院が開窟
- 祖先の霊に対してお祈りをする「チャイティヤ窟」と仏教の修行者が暮らす「ヴィハーラ窟」の2つに大きく分けられる
「アジャンター石窟寺院」のプロフィール
登録名称 | アジャンター石窟寺院群 |
---|---|
登録年 | 1983年 |
所在国 | インド |
登録ジャンル | 文化遺産 |
登録基準 | (i)(ii)(iii)(vi) |
そもそも「アジャンター石窟寺院」とは?
密林に突如として現れる石窟寺院群
『アジャンター石窟寺院』とは、2000年以上も前に岩壁を削って造られた仏教の寺院です。
世界各地で見られる仏教寺院の多くが木材を使って地上に建造されているのに対し、インドのアジャンターで見られる仏教寺院は、天然の岩を削って寺院の形に造形している点が最大の違いです。
ちなみに、アジャンターでは仏教の石窟寺院のみが見られますが、近隣のエローラ地域ではなんと複数の宗教の石窟寺院が混在する姿を見ることができます。
エローラの石窟寺院については下記の記事で解説しているので、気になる方はぜひ併せて読んでみてください。
合わせて読みたい!【インド | エローラ石窟寺院とは?】世界遺産登録理由&歴史をわかりやすく解説!歴史
各石窟内では石像、彫刻、壁画など様々な作品が見られる
アジャンターで一番最初に造られた石窟寺院は、なんと紀元前(2000年以上前)にまでさかのぼります。
この歴史の長さは世界最古級です。
紀元前2〜後2世紀 | 最初の石窟寺院が造られる。 |
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2世紀〜5世紀 | 石窟寺院造りが行われなくなる。 |
5世紀 | 当時インドにあった王国グプタ朝が最盛期を迎えたことで、石窟寺院造りが再開される。 |
7世紀 | グプタ朝による石窟寺院造りが終了する。 |
8世紀 | 仏教が衰退した影響で、石窟寺院が次第に廃墟となっていく。 |
1819年 | 当時インドを支配していたイギリスの軍人によってたまたま発見される。 |
用語メモ
グプタ朝とは、320〜550年にかけて繁栄した北インドの王国。王国名の由来は、当時ガンジス川周辺を支配していたチャンドラ・グプタ1世という人物名から取られた。アジャンターに多くの石窟寺院が造られた時期は、グプタ朝という王国が大きく繁栄した5世紀頃です。
しかし、次第にインドでは仏教よりもヒンドゥー教が勢力を強めていったため、仏教寺院であるアジャンターはどんどん衰退していきました。
その後、イギリスがインドを支配していた時代に、アジャンター付近でトラ狩りをしていたイギリス軍人の指揮官ジョン・スミスによって、アジャンターの石窟寺院が偶然発見されたのです。
石窟寺院の発見にあまりにも興奮したジョン・スミスは、そばにあった柱に記念として、自分の名前、所属部隊、日付を記しました。
なお、柱への記述は今なお残されており見ることができます。
前期窟と後期窟とは?
特に石像や彫刻の数が多い第26窟の内部の様子
アジャンターの石窟寺院は、年代によって造られた技術や魅力が大きく異なるのが特徴です。
造られた年代は、大きく「前期窟」と「後期窟」の2つに分けられます。
前期窟 | |
---|---|
年代 | 紀元前2〜後2世紀(紀元前1〜後1世紀という説もある) |
特徴 | ・彫刻や装飾はほとんど無く、全体的に簡素な造り。 ・第9、10窟の壁画はほとんど剥がれ落ちている。 ・第10窟はインド最古のものと考えられている。 |
後期窟 | |
年代 | 5〜7世紀(グプタ朝時代のもの) |
特徴 | ・多彩な壁画で埋め尽くされている。 ・第19、26、29窟の正面や柱には浮き彫りで表現された仏像が多く見られる。 |
世界遺産登録理由
第8窟からアクセスできる見晴らし台から見た石窟寺院の全景
『アジャンター石窟寺院群』が世界遺産登録された理由は、大きく下記の4点に分けられます。
- 他の地域では見られない規模の石窟寺院が残されている
- 芸術性が高い作品が数多く残されている
- 壁画が他国の芸術に大きな影響を与えた
- 古代インドの文化・芸術を知る上で貴重な証拠
理由1:他の地域では見られない規模の石窟寺院が残されている
涅槃像などの多数の仏像を見ることができる第26窟
世界遺産登録理由の1つ目は、他の地域では見られない規模の石窟寺院が残されている点です。
アジャンターの石窟寺院は、湾曲して流れるワゴーラ川という川沿いの岩壁全長約600mの間に点在しています。
石窟寺院の数は大小30にのぼり、ここまで多くの仏教寺院が密集する地域は他ではなかなか見られません。
なお、アジャンターの石窟寺院は「チャイティヤ窟」「ヴィハーラ窟」という2つのタイプに分けられます。
チャイティヤ窟 | 祖先の霊に対してお祈りをする祠堂(しどう)と呼ばれる形式の寺院。内部にはストゥーパと呼ばれる仏教の塔(仏塔)が置かれている。 |
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ヴィハーラ窟 | 仏教の修行者が暮らす住居形式の寺院。アジャンターで見られる石窟寺院のほとんどがヴィハーラ窟と考えられている。 |
理由2:芸術性が高い作品が数多く残されている
壁画は壁や柱だけでなく天井にまで描かれている
世界遺産登録理由の2つ目は、石窟寺院内に描かれている壁画の芸術性が高く評価された点です。
アジャンターで見られる壁画は、主に以下の2つの手法・技術が採用されて描かれています。
- テンペラ技法の一種
- 異時同図法(いじどうずほう)※主に第10窟の壁画で用いられている。
用語メモ
テンペラとは、壁画などの板絵に適している、卵などを材料にした着色の粉で描く技法。用語メモ
異時同図法(いじどうずほう)とは、時間的な流れのあるものごとを同じ画面の中で時系列を感じさせるように描く技術。アジャンターの壁画は、主に粘土と牛のフンを壁に塗り、その後着色に使う粉末を石炭を重ねた下地に描いていきます。
さらに、後期窟の壁画には”高価な石”、”12月の誕生石”として知られる「ラピスラズリ」という石も使用して高級感を演出しています。
これらアジャンターの壁画は、歴史の長さだけでなく、芸術性の高い美術作品としても高い評価を得ているのです。
ちなみに、通常、美術品などの人の手で動かせるものは世界遺産登録の評価対象にはされません。
しかし一方で、歴史的建造物や自然界に存在するもの(木や岩など)に直接描かれた壁画などの作品に関しては、人の手によって簡単に動かすことのできない”不動産”として認識されるため、世界遺産登録の評価対象になるのです。
なお、壁画が大きく評価されて世界遺産登録された代表格として知られるイタリアの”最後の晩餐”については、下記の記事で詳しく解説しているので、気になる方はぜひ併せて読んでみてください。
合わせて読みたい!【ダヴィンチの名作”最後の晩餐”はなぜ世界遺産?】登録理由&歴史をわかりやすく解説!理由3:壁画が他国の芸術に大きな影響を与えた
アジャンターの壁画を代表する第1窟に描かれている「蓮華手守門神」
世界遺産登録理由の3つ目は、アジャンターの壁画が他国の芸術に大きな影響を与えた点です。
日本を代表する世界遺産「法隆寺」の金堂には壁画があります。
実は法隆寺の壁画は、アジャンターの第1窟に描かれている「蓮華手菩薩像(れんげしゅぼさつぞう)」に影響を受けて描かれたと考えられているのです。
(法隆寺については、こちらの記事で詳しく解説してまします)
用語メモ
蓮華手菩薩像(れんげしゅぼさつぞう)とは、数あるインド芸術の中で特に傑作として評価されている、アジャンターのシンボル的存在の像。繊細な筆使いで描かれ、蓮の花を手にしている姿が印象的。また、アジャンター芸術の影響は、日本だけでなく、後に中国や中央アジア(ウズベキスタン付近)などアジアの広範囲にまで及びました。
理由4:古代インドの文化・芸術を知る上で貴重な証拠
各石窟内には細かな彫刻や壁画が残されており当時の技術の高さうかがえる
世界遺産登録理由の4つ目は、古代インドの文化・芸術を知る上で貴重な証拠が残されている点です。
前述の「そもそも「アジャンター石窟寺院」とは?」でも解説したように、アジャンターの石窟寺院は2,000年以上の歴史を持つ、世界最古級の寺院群です。
さらに、インド最古と考えられている貴重な仏教壁画も残されています。
今なおその美しく雄大な姿を見せていることから、古代インドの技術、及び芸術は非常に高かったと考えられています。
このように、石窟寺院やそこに描かれている壁画は、インドの歴史を紐解く上で重要な資料になっているのです。
問題点・課題点
石窟内の壁画の劣化が懸念されている
アジャンター石窟寺院が抱える問題・課題として挙げられるのが、壁画の劣化です。
数千年前に描かれた壁画という歴史の古さの影響もありますが、壁画の劣化が進んでいる原因としては、主に下記が考えられています。
- 石窟内の湿気や降雨など自然環境の影響による被害
- 観光客増加による弊害(オーバーツーリズム)
- 誤った修復作業
なかでも”誤った修復作業”は、アジャンターの壁画を保存していく上で非常に重要なポイントです。
初期の修復では、壁画の劣化を防ぐために絵の上からワニス(ニス)を塗り、塗料が剥がれ落ちないような対策を行なっていました。
しかし、時間の経過とともにワニスの副作用によって壁画の美しい色が剥がれ落ちてしまうというトラブルが発生したのです。
このような”誤った修復”を行わないために、インド考古局を中心に”最適な修復方法”の研究が進められています。
さらに、なんとこの研究には2008年から日本も協力し始めています。
世界遺産の保護保全活動を行うことは非常に大切ですが、誤った対応をしないためにも入念な研究、事前調査は必須なのです。
なお、世界遺産の保護保全のルール等に関しては下記の記事で詳しく解説しているので、この機会にぜひ併せて読んでみてください。
合わせて読みたい!【アテネ憲章&ヴェネツィア憲章】世界遺産の修復に関する内容の違いを小学生でもわかるように解説!参考文献
東京文化財研究所:https://www.tobunken.go.jp/ccr/pdf/53/5313.pdf本日の確認テスト
(「世界遺産検定」の概要についてはこちらの資料を参考にしてください)
3,4級レベル
アジャンター石窟寺院の造営を行なった宗教として正しいものはどれか。
- ヒンドゥー教
- ユダヤ教
- 仏教
- ジャイナ教
③
答え(タップ)>>2級レベル
アジャンター石窟寺院建造の最盛期となった5世紀頃にインドに存在した王朝の名称として正しいものはどれか。
- サータヴァーハナ朝
- シャイレーンドラ朝
- クシャーナ朝
- グプタ朝
④
答え(タップ)>>1級レベル
『アジャンター石窟寺院群』の説明として正しいものはどれか。
- トラ狩りをしていたイギリス軍人の指揮官によってたまたま石窟寺院が発見された。
- 第10窟にはインド最古のヒンドゥー教壁画が残されている。
- 描かれた壁画は後に日本の薬師寺や中国、中東の芸術に大きな影響を与えた。
- 第16窟のカイラーサ寺院はアジャンター最大の石窟寺院で壁や柱には古代インド叙事詩の世界が描かれている。
①
答え(タップ)>>まとめ
- アジャンターは紀元前から造られ始めた仏教の石窟寺院。
- グプタ朝が最盛期を迎えた5世紀に多くの石窟寺院が造られた。
- 石窟寺院はトラ狩り中のイギリス軍人の指揮官ジョン・スミスによって偶然発見された。
- 時代分けとして「前期窟」と「後期窟」があり、インド最古の石窟寺院は第10窟。
- 「チャイティヤ窟」「ヴィハーラ窟」という2つのタイプの石窟寺院に分けられる。
- 寺院内の壁画は主にテンペラ技法や異時同図法(いじどうずほう)で描かれている。
- アジャンターの壁画と法隆寺の壁画には関係性がある。
- 誤った修復作業などによって壁画の劣化が問題視されている。
おまけ:「アジャンター」のプチ観光情報
アジャンター観光の拠点となる街アウランガーバードにあるシンボル「ビービー・カ・マクバラー」
拠点となる都市 | アウランガーバード |
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最寄り空港 | アウランガーバード空港 |
公用語 | ヒンディー語 |
通貨 | インドルピー |
観光のベストシーズン | 10〜4月 |
時差 | 3時間30分 ※日本が3時間30分進んでます。 |
治安 | 普通(スリなどの軽犯罪には要注意) |
物価 | 安い(日本の1/4ほど) |
ビザ | 必要(アライバルビザ、e-visaあり) |
アジャンター石窟寺院観光の拠点となるアウランガーバードは、ニューデリーやムンバイなどの主要観光都市と比べると観光客は少なめです。
そのため、観光地価格設定があまり行われておらず、安価でインド観光を楽しむことができるのが魅力です。
一方で、アウランガーバードはインド有数の大都市であり、決して治安が良いとは言えないため、夜間の一人歩きや手荷物管理には十分気をつけましょう。
アクセス
アジャンター行きのバスが出ているアウランガーバード・バススタンドの様子
残念ながら、日本からアジャンターの観光拠点となるアウランガーバードへの直行便は就航していません。
一般的には、ニューデリー or ムンバイを経由してアクセスすることになります。
航空会社:全日空(ANA) NH829
フライト時間:9時間40分
航空会社:エア・インディア AI499
フライト時間:1時間5分
乗車時間:3時間
乗車時間:10分
アウランガーバード発のアジャンター行きバスは30分おきに1本出ているため、比較的アクセスは容易です。
ただし、アジャンター最寄りのバス停から石窟寺院エリアまではシャトルバスを利用する必要があるため、時間に余裕を持って訪れることをおすすめします。
なお、アジャンターへのアクセス詳細については、実体験をもとに下記の記事で解説してます。
合わせて読みたい!【アジャンター&エローラ石窟寺院のアクセス | おすすめオプショナルツアー紹介あり】訪問経験者がわかりやすく解説!アウランガーバードのホテル情報
おすすめホテルの一つ「ホテル・グリーン・オリーブ」の客室(一例)
- ホテル集中エリアは「アウランガーバード駅周辺」と「バススタンド周辺」
- 市内中心部は2〜3つ星の安価な宿泊施設が中心
- 市内中心部から少し離れると4〜5つ星ホテルが点在
アジャンター方面のバスが出ている市内中心部のバススタンド周辺には、比較的安価な宿泊施設が点在しています。
もしアジャンター観光の利便性を重視し、少しでも宿代を浮かせたい場合は、バススタンド周辺の宿泊がおすすめです。
一方で、サービスの充実度などホテルにこだわりを持ちたい場合は、市内中心部から少し離れた4〜5つ星ホテルを狙いましょう。
2名1室あたり1泊1万円前後で宿泊できるため、日本ではなかなか体験できない贅沢な時間を過ごすことができます。
なお、アジャンター周辺にはほとんどホテルはありません。
石窟寺院から車で20分ほど行ったところに数件ありますが、あまりロケーションは良くないので、ホテルはアウランガーバードで取っておきましょう。
参考文献・注意事項
- 当記事の内容は「世界遺産検定1級公式テキスト<上>」と「世界遺産検定1級公式テキスト<下>」を大いに参考にしています。
- 当記事は100%正しい内容を保証するものではありません。一部誤った記載が存在する可能性があることをあらかじめご了承ください。