こんな方にオススメの内容!
- 複数の国や地域にまたがって世界遺産登録される理由や条件を知りたい!
- 「シリアルノミネーションサイト」「トランスバウンダリーサイト」などの専門用語の内容を理解したい!
- 実際にシリアルノミネーションサイト、トランスバウンダリーサイトに登録されている世界遺産を知りたい!
- 教養として世界遺産に関する知識を習得したい!
- 世界遺産検定の受験を考えている!
ポイント
- 基本的にはシリアル・ノミネーション・サイトの国境越えバージョンがトランスバウンダリー・サイトと考えてOK!
- 文化・歴史・自然など何かしらの繋がりが背景にあることが条件となる!
- 遺産を保有している国同士で協力して保護・保全をしていく!
結論:世界遺産の範囲が地域なのか国なのか
「シリアル・ノミネーション・サイト」と「トランスバウンダリー・サイト」の共通点と異なる点をざっくりまとめると下記のようなイメージです。
シリアル・ノミネーション・サイト | トランスバウンダリー・サイト |
---|---|
複数の地域に遺産が点在している。 | |
それぞれの遺産の背景に繋がりがある。 | |
同じ国、または複数の国に遺産が点在していれば認められる(必ずしも複数の国にまたがっている必要はない)。 | 複数の国にまたがって遺産が登録されていると認められる。 |
点在している遺産は全て必ず一つの世界遺産としてまとめられて登録されている。 | たとえ複数の国に遺産が点在していても別々の世界遺産として登録されていることもある(その場合は認められない)。 |
国境を越えた登録になるとトランスバウンダリー・サイトとしても認められる。 | 必然的にシリアル・ノミネーション・サイトも認められる。 |
なお、トランスバウンダリー・サイトが認められれば必然的にシリアル・ノミネーション・サイトも認められます。
一方でシリアルノミネーション・サイトが認められても、国境を越えていないとトランスバウンダリー・サイトは認められません。
図解で表すと下記のようなイメージですね。
上記を踏まえた上で、後述ではそれぞれの特徴や登録されている遺産を詳細に解説します!
シリアル・ノミネーション・サイトとは
シリアル・ノミネーション・サイトを満たしている「ラサのポタラ宮(中国)」
答えから言うと
文化や歴史的背景、自然環境などが共通する遺産を、全体として顕著な普遍的価値を有するものとして登録した遺産
このようになります。
簡単に表現すると
「背景に繋がりのある複数の遺産をまとめて登録したもの」
こんなニュアンスですね。
正式にシリアル・ノミネーション・サイトとして認められるには主に下記のような条件があります。
- 同一の歴史・文化群に属するもの
- 地理区分を特徴づける同種の資産であるもの
- 同じ地質学的、地形学的、または同じ生物地理区分もしくは同種の生態系に属するもの
日常生活で例えるなら下記のようなイメージでしょうか。
「バニラアイス」「チョコレートアイス」をまとめてサーティーワン・アイスクリームとして販売している。しかしハーゲンダッツが販売しているアイスクリームは同じアイスというジャンルだとしても会社という背景が異なるため、同じアイスとしては認められない。
最近では、それぞれの資産を繋ぐストーリーも重視されています!
また、必ずしも個々の構成資産が顕著な普遍的価値を有している必要はなく、全体として顕著な普遍的価値を持っていれば良いとされています!
さらに、最初に登録された遺産に顕著な普遍的価値があれば、その後追加で登録される遺産には登録時点で顕著な普遍的価値がなくてもOKとされているのです(もちろんその後数年の間に顕著な普遍的価値がることを証明しなければなりません)。
なお「顕著な普遍的価値」の意味を含む世界遺産リストへの登録要件に関しては下記の記事で詳しく解説しています!
合わせて読みたい!【世界遺産とは?世界遺産条約とは?】世界遺産の超基礎情報を小学生でもわかるように解説!シリアル・ノミネーション・サイトの世界遺産例
シリアル・ノミネーション・サイトを満たしている「ロワール渓谷のシュノンソー城(フランス)」
国内 | |
---|---|
富士山 – 信仰の対象と芸術の源泉 | 山梨県・静岡県 |
明治日本の産業革命遺産・製鉄・精銅、造船、石炭産業 | 福岡県・長崎県・他6県 |
ル・コルビュジエの建築作品:近代建築運動への顕著な貢献 | 東京都 |
北海道・北東北の縄文遺跡群 | 北海道・青森県・秋田県・岩手県 |
海外 | |
シュリー=シュル=ロワールとシャロンヌ間のロワール渓谷 | フランス |
ラサのポタラ宮歴史地区 | 中国 |
フランク・ロイド・ライトの20世紀建築作品群 | アメリカ |
フィリピンのバロック様式教会群 | フィリピン |
アンコール遺跡 | カンボジア |
なお日本の世界遺産でもある「ル・コルビュジエの建築作品:近代建築運動への顕著な貢献」に関しては
- 地域点在型の世界遺産(シリアル・ノミネーション・サイト)
- 国境越え世界遺産(トランスバウンダリー・サイト)
- 大陸越え世界遺産(トランスコンチネンタル・サイト)
なんと3つの概念を満たしている特殊な世界遺産なのです!
トランスコンチネンタル・サイトとは
大陸をまたいで世界遺産登録をされている「ル・コルビュジエの建築作品(ロンシャン礼拝堂)」
「コンチネンタル = 大陸」
つまり、単純に国境を越えて登録された世界遺産ではなく、大陸を越えた世界遺産登録になります。
例えば、北米(北アメリカ大陸)とヨーロッパ(ユーラシア大陸)で登録されればトランスコンチネンタル・サイトを満たしていることになります。
要するにトランスバウンダリー・サイトを満たしている世界遺産が大陸を越えていれば
「トランスバウンダリー・サイト & トランスコンチネンタル・サイト」
となるわけです。
なお、トランスコンチネンタル・サイトに登録されやすい世界遺産の特徴としては主に下記が挙げられます。
- 一人の著名な建築家による作品が世界中に点在している
- かつて大陸を越えて繁栄した文明の遺跡群・痕跡群
- 世界遺産に値する文化財・自然が海峡、運河、海洋などの大陸間の近くに存在する
トランスバウンダリー・サイトとは
トランスバウンダリー・サイトを満たしている「ワッデン海(デンマーク・ドイツ・オランダ)」
答えから言うと
「国境を越えて登録された遺産のまとまり」
このようになります。
もちろんシリアル・ノミネーション・サイトと同様にそれぞれの遺産の背景に繋がりがあることが大前提です。
なのでイメージとしては、「シリアル・ノミネーション・サイトに該当する遺産が”国境を越えて登録”されたらトランスバウンダリー・サイトとしてもみなされる」といった感じです。
日常生活で例えるなら下記のようなイメージでしょうか。
アメリカで誕生したコーヒーチェーン店である「スターバックスコーヒー」が、国内だけでなく隣国のカナダやメキシコにも出店し、同じ会社として経営を続ける。
もともとトランスバウンダリー・サイトは文化遺産には取り入れられていない考えで、実際には国境が実在しない自然遺産に適用すべき考えであると提案されたものでした。
そしてもし価値ある自然が複数の国にまたがっていた場合は、その全ての国で協力しあって保護・保全していくことが望ましいとされたのです。
その後、文化遺産にも適用されることとなります。
なぜなら文化遺産にも
「同じ民族・文化圏だった地域がその後国境が敷かれたことで分断された」
このようなケースが考えられたためです!
トランスバウンダリー・サイトに該当する世界遺産には下記が強く推奨されています。
- できる限り世界遺産を有する国が共同で登録推薦書を作成する。
⇨本来は世界遺産を保有する1カ国が作成するが複数の国にまたがっているため。 - 共同管理委員会・機関などを設立して遺産全体の管理・監督をする。
⇨自分たちの国に属する遺産の範囲だけではなく登録範囲全てを管理する。
トランスバウンダリー・サイトの世界遺産例
国境をまたいでいるがトランスバウンダリー・サイトではない「イグアス国立公園(ブラジル・アルゼンチン)」
国内 | ル・コルビュジエの建築作品:近代建築運動への顕著な貢献 | 東京都 |
---|---|
海外 | |
シュトルーベの測地弧 | ノルウェー、ウクライナ、他8カ国 |
シルクロード:長安から天山回廊の交易網 | 中国・カザフスタン・キルギル |
カパック・ニャン アンデスの道 | アルゼンチン、エクアドル、他6カ国 |
ベルギーとフランスの鐘楼群 | ベルギー・フランス |
ワッデン海 | デンマーク・ドイツ・オランダ |
- イグアス国立公園(ブラジル・アルゼンチン)
- サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路(スペイン・フランス)
- そもそも歴史的背景や自然環境に繋がりがない(または弱い)。
- 生息する生物的にも景観的にも同一の世界遺産とみなすには違和感がある(主に自然遺産)。
- 各国が別々の管理体制を敷いているため共同管理に移行するのには手間がかかる。
もちろん別々に登録されていた世界遺産が途中からトランスバウンダリー・サイトとして登録されるケースはあります。
ただ正直な話
「トランスバウンダリー・サイトだからすごい!魅力的!」
というのはあまりないですね(苦笑)
ちなみに最も多くの国にまたがって登録されている世界遺産は、計18カ国にも及ぶ『カルパティア山脈とヨーロッパ各地の古代及び原生ブナ林』です。
こちらの遺産の詳細は下記で詳しく解説しているので、気になる方はぜひ併せて読んでみてください!
合わせて読みたい!【カルパティア山脈とヨーロッパ各地のブナ林】世界遺産登録の理由をわかりやすく解説!本日の確認テスト
(「世界遺産検定」の概要についてはこちらの資料を参考にしてください)
3,4級レベル
トランスバウンダリー・サイトが認められている世界遺産として誤っているものはどれか。
- イグアス国立公園
- ベルギーとフランスの鐘楼群
- ル・コルビュジエの建築作品
- ワッデン海
①
答え(タップ)>>2級レベル
シリアル・ノミネーション・サイトに関する説明として正しいものはどれか。
- 同一の歴史・文化群に属していなくても見た目・景観に共通点が見られれば認められる。
- もともとは自然遺産にのみ適用されていた考えだった。
- 個々の遺産は常に科学的な研究やモニタリングが実施されている。
- 必ずしも個々の構成資産が顕著な普遍的価値を有している必要はない。
④
答え(タップ)>>1級レベル
トランスバウンダリー・サイトの説明として誤っているものはどれか。
- 世界遺産登録時は1カ国であってもその後範囲が拡大されてトランスバウンダリー・サイトが認められることもある。
- できる限り世界遺産を有する国が共同で登録推薦書を作成する。
- 日本では2021年時点で計2件の世界遺産が認められている。
- 共同管理委員会・機関などを設立して遺産全体の管理・監督をする。
③
答え(タップ)>>まとめ
- 同国内で遺産が点在しているとシリアルノミネーション・サイト!
- 国境を越えて遺産が点在しているとトランスバウンダリー・サイト!
- 文化・歴史・自然などの何かしらで繋がりが背景にあることが条件!
- 遺産を保有しているすべての国で協力して推薦書の作成や遺産の保護・保全を行なっていく!
- 必ずしも全ての遺産が”顕著な普遍的価値”を満たしている必要はない!
参考文献・注意事項
- 当記事の内容は「世界遺産検定1級公式テキスト<上>」と「世界遺産検定1級公式テキスト<下>」を大いに参考にしています。
- 当記事は100%正しい内容を保証するものではありません。一部誤った記載が存在する可能性があることをあらかじめご了承ください。