こんな方にオススメの内容!
- なぜ小笠原諸島が世界遺産に登録されたのか理由が気になる!
- 教養として世界遺産に関する知識を身につけたい!
- 世界遺産検定の受験を考えている!
- 小笠原諸島の動植物や生態系に興味関心がある!
- 次の旅行先の候補地を探している!
遺産ポイント
- 「適応分散」によって固有種率の高い独特の生態系が誕生した!
- 「海洋性島孤」というプレートの沈下による現象によって群島が誕生した!
- 海洋生物の固有種は多いが陸上生物の在来種は極めて少ない!
- バッファーゾーンが無い代わりに東京湾まで続く「世界遺産管理エリア」が設定された珍しい遺産管理!
「小笠原諸島」のプロフィール
登録名称 | 小笠原諸島 |
---|---|
登録年 | 2011年 |
所在国 | 日本(東京都) |
登録ジャンル | 自然遺産 |
登録基準 | (ix) |
小笠原諸島の世界遺産としての価値
地理的視点による価値
小笠原諸島は大きく分けて下記の3つに分けられます。
- 父島列島
- 母島列島
- 聟島(むこじま)列島
その中でも父島列島にある「父島」は小笠原諸島で最も人口の多い島で観光の拠点になります。
人間ですらなかなか足を踏み入れられない環境は当然のことながら生息する動植物にも大きな影響を与えました。
あまりにも遠く離れた”絶海の孤島”であるため、他の大陸に生息する動植物はほとんどたどり着くことができませんでした。
その結果、現在小笠原諸島に生息する動植物は移動能力の高い鳥類を除いてはほとんどが小笠原諸島の固有種になっています!
世界の固有種率の高い島の多くがこの小笠原諸島と似たような地理的要因があり、固有種が多く生息できる条件のひとつになっています。
一度も大陸と繋がってない海洋島
小笠原諸島が美しい自然と固有種率の高い貴重な生態系を維持できている大きな要因として、小笠原諸島が「海洋島」である点がポイントです!
小笠原諸島のような大陸と一度も繋がったことがない海洋島の形成は大きく分けて下記の2つのパターンに分けられます。
- 海底火山の噴火によって地上に出てきたマグマが冷え固まって島を形成
- プレートが他のプレートに沈み込み隆起して島を形成
小笠原諸島の場合は後者です。
太平洋プレートがフィリピン海プレートに沈み込み大地が隆起したことによって誕生しました。
このような海底プレートの浮き沈みによって誕生し一度も大陸と繋がっていない島のことを「海洋性島弧(かいようせいとうこ)」と言います!
ちなみに前者の海底火山の噴火の例でいうと「ハワイ諸島」「ガラパゴス諸島」などが挙げられます。
一度も大陸と繋がったことがないことがポイントとなる理由は以下になります。
- 独特の生態系が形成されやすい
- 外来種による影響を受けにくい
- 人的弊害を受けにくい
要するに島の独特の生態系が維持され続ける条件が整いやすいということです!
もし現在大陸と繋がっている、または繋がった歴史がある場合だと他の大陸と全く性質の異なる動植物と混同することが考えられます。
つまり、その地域ならではの生態系が形成されにくくなります。
また人間の手が加わりやすく、その影響で生物が生息できる環境が壊される可能性も高まります。
このような状態を必然的に避けられるのが大陸と隔絶された孤立した島の世界なのです!
「適応放散」という独特の進化様式
「適応放散」も前述の「海洋島」や「海洋性島弧」と同じく、小笠原諸島の世界遺産としての価値を理解するためには非常に重要なワードになります!
適応放散を簡単に解説すると、「起源は同じだけどその地域の環境に応じて生物それぞれが独自の進化を遂げて結果的に種類が分割される」というものです。
もっと簡単に言うと、最初は性質も環境も同じだったのに、時が経つにつれてそれぞれ異なる進化を遂げたという感じですね。
小笠原諸島でも同様に、時が経つにつれてそれぞれの動植物が環境に適した進化を遂げて独特の生態系が完成しました。
別の言い方で「種の分化」とも言われます。
この適応放散(種の分化)という過程が今もなお見ることができる貴重な環境という点が、世界遺産登録に大きく影響しています!
生息する動植物の特徴
海洋生物の固有種・絶滅危惧種が非常に多い!
小笠原諸島近海では数多くの種類のクジラに出会える
小笠原諸島は太平洋のど真ん中に位置するため、当然のことながら海洋生物を中心に固有種・絶滅危惧種の数が非常に豊富です!
特に有名なのが下記の生物です。
- マッコウクジラなどの絶滅危惧種指定のクジラ
- 小笠原諸島に定住していると考えられている「ミナミバンドウイルカ」
- 固有種である「カタマイマイ属(カタツムリ)」
とりわけクジラに関しては世界有数の生息地&豊富な種類として有名で、近海では繁殖も確認されているほどです。
このようなクジラをまとめて「クジラ類23種」とも言われており、絶滅危惧種に指定されているクジラの多くが生息を確認されています。
また、イルカに関しては他海域との交流が限られていることが判明し、小笠原諸島周辺に定住しているほど貴重な環境であることがわかってます。
在来種が非常に少ない!?
固有種や絶滅危惧種が多い反面、小笠原諸島の在来種というものが非常に少ない点もポイントです!
- 爬虫類はわずか2種
- 哺乳類は1種(オガサワラオオコウモリ)
- 両生類は無し
これは冒頭でも話に出たように小笠原諸島が一度も大陸続きになったことの無い”絶海の海洋島”という位置が関係しています。
飛行能力のある鳥類ですら小笠原諸島に定住している種類は限られます。
管理体制と課題
小笠原諸島の観光スポットで人気の高い南島の「扇池」
固有種を保護する厳重な体制
小笠原諸島の管理計画は、「小笠原諸島世界自然遺産地域科学委員会」が中心になって策定されました。
この委員会が定めた内容は以下の通りです。
- 優れた自然環境の保全
- 外来種による影響の排除・回避
- 人の暮らしと自然の調和
- 順応的な保全・管理計画の実施
このようにはっきりと明示することが、自然遺産としての価値を維持しつつ高めることに繋がります。
またより具体的な対策として、小笠原諸島の一番人気の観光地である「南島の扇池」では数多くの制約が設定されています。
- 1回の上陸は15人以内&2時間以内
- 1日の上陸は100人以内
- 東京都認定ガイドの同行が必要
こうした厳重な保護下に置かれていることが現在も小笠原諸島が美しい自然を保てている理由です。
外来種による生態系の乱れが懸念
大陸から遠く離れた群島である小笠原諸島でも少なからず”外来種による問題”を抱えています。
特に問題となっている生物が下記の2つです。
- ノヤギ
- グリーンアノール
「ノヤギ」とは、家畜だったヤギが野生化したもので、下記のような問題がありました。
- 繁殖力が高く年々増加傾向にあった。
- 貴重な食物を荒らす。
- 植物を中心に生態系を乱す。
しかし、現在は対策が功をそうしノヤギ問題は解決されました。
だが一方で、外来種である「グリーンアノール」の駆除問題は現在進行形で抱えている問題です。
このように、今後も小笠原諸島では外来種対策に力を入れなければなりません。
バッファー・ゾーンが存在しない!?
バッファー・ゾーンは現在登録されている世界遺産の多くに設定されています。
しかし、小笠原諸島にはバッファー・ゾーンが定められてません。
定められていない理由は以下の通りです。
小笠原諸島を国立公園に指定するなど全体を保全対象にしているため明確なバッファー・ゾーンを決めるのが難しい
つまり国立公園に指定している時点で必然的に周辺のエリアに制限が課されているということです。
バッファーゾーンの代わりとして「東京湾まで続く”世界遺産管理エリア”」が設けられています!
このように本土から管理エリアを設定することで本土から容易に外来種等が侵入してくることを防ぐことができます。
バッファー・ゾーンを含む遺産保護に関しては、下記の記事で詳しく解説しています。
合わせて読みたい!【MAB計画とは?生物圏保存地域とは?】人間の生活と生物多様性を保全する仕組みを世界遺産を絡めて解説!本日の確認テスト
(「世界遺産検定」の概要についてはこちらの資料を参考にしてください)
3, 4級レベル
小笠原諸島のように海底プレートの浮き沈みによって誕生し一度も大陸と繋がったことのない島々の総称を選びなさい。
- 地核的島弧
- 海洋性島弧
- 海底性島弧
- 隔絶性島弧
②
答え(タップ)>>2級レベル
「適応放散」の解説として正しいものを選びなさい。
- 起源は同一だが種々の異なる環境に適応し分化するように進化すること。
- その地域の環境に適した形態に随時進化を遂げ続けること。
- 種々の適切な環境を追い求めて様々な地域へと繁殖地を変えること。
- ある地域で繁殖した動植物が異なる環境に移動後その地域の環境に適した進化をあらためて遂げること。
①
答え(タップ)>>1級レベル
小笠原諸島に生息する動植物の生態系の説明で誤っているものを選びなさい。
- 大陸から非常に離れているため飛行能力のある鳥類ですら定住している種類は少ない。
- クジラやイルカといった海洋哺乳類の生息数が世界的に見ても多い。
- シカやクマをはじめとした陸上哺乳類の生息数は国内有数の豊富さを誇っている。
- 小笠原諸島に生息する在来種は爬虫類は2種・両生類は0種と非常に少ない。
③
答え(タップ)>>まとめ
- 小笠原諸島は海洋性島弧と呼ばれるプレートの沈下によって一度も大陸と繋がらずに誕生した。
- 種の起源は同じだが種々の環境適応によって進化し分化されるという適応放散の過程を今でも見られる。
- クジラなどの絶滅危惧種やミナミバンドウイルカなどの海洋哺乳類の生息数が非常に多い。
- バッファーゾーンが無く代わりに東京湾まで続く”世界遺産管理エリア”が設定されている。
おまけ:小笠原諸島はブラジルと同じぐらい遠い世界!?
本文の「地理的視点による価値」でも少し触れましたが、小笠原諸島には空港が存在しません。
そのため小笠原諸島へのアクセス手段としては、「東京・竹芝」から出ている定期船「おがさわら丸」に乗船して玄関口となる父島まで行かなければなりません。
気になる乗船時間は、なんと片道約24時間!
ちなみに、日本の裏側に位置するあのブラジルまでのフライト時間が約24時間なので、ほぼブラジルに行くようなものなんですよね(笑)
さらに一度小笠原諸島に上陸すると、最低でも1週間待たないと帰りの便に乗ることができません。
ですので、小笠原諸島へ旅行を計画する際は最低でも1週間は休みを取りましょう!
参考文献・注意事項
- 当記事の内容は「世界遺産検定1級公式テキスト<上>」と「世界遺産検定1級公式テキスト<下>」を大いに参考にしています。
- 当記事は100%正しい内容を保証するものではありません。一部誤った記載が存在する可能性があることをあらかじめご了承ください。