こんな方にオススメの内容!
- なぜ「ヘブロン:アル・ハリル旧市街」が世界遺産に登録されたのか理由が気になる!
- パレスチナ問題(中東情勢)に関わる知見を身につけたい!
- 教養として世界遺産に関する知識を身につけたい!
- 世界遺産検定の受験を考えている!
- 中東への旅行を考えている!
遺産ポイント
- ”緊急的登録推薦”という形式で世界遺産に登録された!
- ヘブロンはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の重要な巡礼地!
- パレスチナ問題やユネスコ脱退など複雑な事情が関わっている!
「ヘブロン:アル・ハリル旧市街」のプロフィール
登録名称 | ヘブロン:アル・ハリル旧市街 |
---|---|
登録年 | 2017年 |
所在国 | パレスチナ |
登録ジャンル | 文化遺産 |
登録基準 | (ii)(vi)(iv) |
備考 | 緊急的登録推薦(世界遺産登録と同時に危機遺産登録) |
世界遺産登録名称の「ヘブロン」「アル・ハリル」とは
丘に沿って家屋が立ち並ぶヘブロン市街
まず”ヘブロン”とはパレスチナ領土内にある都市の名前です。
(ただし、パレスチナを国家として認めていないイスラエル側からすると、自分たちの国土内の都市であると考えているため”イスラエルの都市”という表現もできる)
次に”アル・ハリル”とはヘブロンをアラビア語で言い換えた都市名になります。
つまり、ヘブロン(アラビア語でアル・ハリル)という都市が世界遺産に登録されていることになります。
このように現地で呼ばれている都市名だけでなく、世界的に知られている名前が登録名称に入るケースはよくあります。
また、今回の「ヘブロン:アル・ハリル旧市街」の世界遺産保有国であるパレスチナは多くの問題を抱えている国になります。
最も有名な問題としては
パレスチナを国家として認めていない国が数多くある
という点です。
認められていない証拠として、2021年時点ではパレスチナは国際連合(国際協力をする機関)に加盟していません。
国際連合に加盟していないということは、正式に国として認められていないと言っても過言ではありません。
一方で、パレスチナはユネスコへの加盟は果たしています。
つまり、国としては正式に認められていないものの、ユネスコへの加盟はしているため世界遺産への推薦をすることは可能なのです!
ちなみにパレスチナを国家として認めている国と認めていない国の内訳は下記になります。
国家として承認している国 | 南米諸国、アフリカ諸国、アジアの多くの国、東欧諸国、他 |
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国家として認めていない国 | 日本、アメリカ、イスラエル(パレスチナを自国の領土と主張)、西欧の多く、オーストラリア、他 |
世界遺産登録のポイント
旧市街の雰囲気
ヘブロンの世界遺産登録は主に下記の2つがポイントになります。
- 複数の宗教の重要な巡礼地として発展した歴史的な価値
- 文化財の保護を強化するために緊急的に世界遺産(危機遺産)に登録
当然のことながらヘブロンは歴史的な価値があることが認められて世界遺産に登録されています。
しかしヘブロンの世界遺産登録は通常の登録とは違い、「今すぐにでも世界遺産に登録して保護した方がいい」という”保護の観点”が世界遺産登録の最大の理由になっています。
具体的な保護の観点などについては後述の「緊急的登録推薦による世界遺産登録へ」で詳しく解説します。
3つの宗教の重要な巡礼地
ユダヤ人の始祖であるアブラハムやヤコブが眠る「マクペラの洞穴」
世界遺産登録名称に「旧市街」というワードが入っているように、ヘブロンの旧市街エリアが世界遺産に登録されています。
この旧市街は、13〜16世紀のマムルーク朝時代に築かれたものです。
その旧市街の価値を高めているポイントは主に下記になります。
- パレスチナ、シナイ半島、ヨルダン、アラビア半島を移動する隊商(商売をする人々)交易の要衝として発展する。
- アブラハムの墓(アブラハム・モスク)がある。
- 3つの宗教の重要な巡礼地となっている。
なお3つの宗教とは下記を指します。
- ユダヤ教
- キリスト教
- イスラム教
そもそもアブラハムとは、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教など複数の宗教の一神教の始祖とされている最初の預言者です。
一神教の始祖は偉大であるため、一神教を取り入れている宗教の人々からするとアブラハムは非常に信仰高き人物なのです。
だからこそ、そのアブラハムの墓があるヘブロンは、一神教の宗教にとって重要な地になるわけです!
その後オスマン帝国時代になるとヘブロンの市街地はさらに拡大し、歴史的にも価値のある建造物が数多く建てられるようになりました。
こういった歴史の重要な段階を知ることができる点が、登録基準(iv)が認められた大きな要因ですね。
(登録基準の詳細に関してはこちらの記事で詳しく解説しています)
緊急的登録推薦による世界遺産登録へ
ヘブロンの旧市街は主に下記のような問題がありました。
- ヘブロンが紛争地帯の比較的近くにある(ヘブロン市内で紛争が起こっているわけではない)
- 経年劣化などにより歴史的な建造物に損傷が見られる
- イスラエルとの緊張が高まっている
要するに、今すぐにでも文化財を保護する状況に置かれていたのです!
そして保護を強化するには世界遺産に登録することが最も有効であると考えられました。
世界遺産に登録されれば他国などから保護・保全に関する協力を得ることができます。
そしてなにより、世界遺産に登録されればヘブロンの街の認知度が上がるため、保護の必要性をうったえ広く伝えることもできます。
このように緊急的な保護の必要性が出てくる場合に緊急的登録推薦が採用されて世界遺産登録されます。
また世界遺産登録されると同時に危機遺産に登録される点も大きな特徴です!
ヘブロンの世界遺産登録とアメリカ&イスラエルのユネスコ脱退との関係
まずアメリカとイスラエルがユネスコから脱退した理由から説明すると、十分な価値が証明されていないにも関わらずヘブロン旧市街が世界遺産に登録されたことに不満を覚えたからです!
具体的には
「ユダヤ教の価値が十分に示されていない」
この点をアメリカとイスラエルは主張しています。
こうしてヘブロン旧市街が世界遺産に登録された翌年にアメリカとイスラエルはユネスコから脱退しました。
イスラエルにとってユダヤ教は極めて重要な宗教です。
そしてヘブロンには「マクペラの洞穴」というユダヤ人の始祖であるアブラハムやヤコブの墓があります。
つまり、ヘブロンが世界遺産に登録されるということは、この洞穴を含むヘブロンの街がパレスチナの領土であることを認めてしまうことに繋がるのです!
そこでパレスチナを国として認めていないイスラエルは世界遺産登録を阻むべく、世界文化遺産の調査をするICOMOSの調査団の入国を拒否しました。
イスラエルへの入国を拒否されたICOMOSの調査団は文化財の調査を実施することができませんでした。
しかしまともに調査がされなかったにも関わらず、世界遺産委員会にて価値が認められて、最終的にヘブロン旧市街は世界遺産に登録されたのです!
この結果にイスラエルは下記の点に対して猛反発しました。
- ICOMOSがまともに調査できなかったのに世界遺産に登録するのはおかしい。
- イスラエルにとって重要なユダヤ教の価値が十分に証明できていないことは世界遺産として相応しくない。
- パレスチナの過去の世界遺産を含めて3遺産全てが緊急的登録推薦なのは政治的な力が動いているに違いない。
本日の確認テスト
(「世界遺産検定」の概要についてはこちらの資料を参考にしてください)
2級レベル
パレスチナのヘブロンを巡礼地としている宗教として誤っているものはどれか。
- イスラム教
- キリスト教
- ユダヤ教
- ヒンドゥー教
④
答え(タップ)>>1級レベル
『ヘブロン:アル・ハリル旧市街』の説明として正しいものはどれか。
- 世界遺産に登録されたことにより、翌年に隣国のイスラエルとヨルダンがユネスコから脱退した。
- 市街地には一神教の始祖とされるアブラハムが眠る「アブラハム・モスク」が築かれている。
- パレスチナ情勢が不安定であったため、遺産保有国のパレスチナではなく隣国のレバノンが世界遺産に推薦した。
- 中央アジアから中国までを結ぶシルクロードの拠点として繁栄した。
②
答え(タップ)>>※「3,4級」レベルのトレーニングテストは対象外になります。
まとめ
- ヘブロンは一神教の始祖「アブラハム」の墓があるため、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の重要な巡礼地となっている!
- 緊急的登録推薦として世界遺産に登録されたため登録と同時に危機遺産にもなっている!
- 「ユダヤ教の価値が十分に示されていない」ことを問題視したアメリカとイスラエルは世界遺産登録の翌年にユネスコから脱退している!
おまけ:パレスチナへの観光目的の渡航は可能?
結論から言うと、パレスチナへの観光目的での渡航は可能です!
ただしパレスチナへ渡航するには主に下記の注意点があります。
- 現状パレスチナ観光ができるエリアは「ヨルダン川西岸地区」のみで、「ガザ地区」への渡航は大変危険なため実質不可能!
- パレスチナの空港よりも、隣国のイスラエルやヨルダンの空港を利用して陸路で移動する方法がトラブルに遭遇する可能性は低い!
- イスラエルに滞在している間はパレスチナの話題は出さない方が良い!
- 隣国からの入国はできるが必ず検問が実施される!
まずイスラエルとパレスチナの間は緊張した関係です。
そのため2カ国間を行き来することには少なからずリスクが伴う可能性があることを念頭に置いといてください(人命に関わるリスクが伴う可能性は非常に低いですが)。
また、パレスチナは大きく分けて2つのエリアに分かれます。
- ヨルダン川西岸地区
- ガザ地区
今回紹介した世界遺産「ヘブロン:アル・ハリル旧市街」やパレスチナ最大の観光都市であるベツレヘムなどがあるのが「ヨルダン川西岸地区」になります。
つまりパレスチナ観光をするとなるとほぼ間違いなくヨルダン川西岸地区を訪れることになります。
一方でもう一方の「ガザ地区」は紛争が絶えず非常に危険なエリアですので、訪れることはおろか、近づくことも避けた方が良いですね。
(パレスチナは情勢が不安定であるため、渡航前には必ず外務省による渡航情報を確認しておきましょう!)
なおパレスチナへの渡航ルートとしては主に下記などが挙げられます。
- 羽田・成田・関空 ⇨ ドバイなどの中東各都市を経由 ⇨ テルアビブ(イスラエル) ⇨ 高速バスなどでパレスチナ国境付近であるエルサレムへ向かう
- 羽田・成田・関空 ⇨ ドバイなどの中東各都市を経由 ⇨ アンマン(ヨルダン) ⇨ 高速バスなどを利用して陸路でパレスチナへ
なおパレスチナへの入国にはビザは不要です!
(ヨルダンの空港を利用する際は空港で無料のビザを取得することになります。イスラエルはそもそもビザが不要です)
またパレスチナ国境付近では必ず検問が実施されます。
とは言っても、身構えするほど恐ろしい検問ではないので、検問官にしたがっていれば問題ないです!
(検問には数時間かかる場合もあるため、時間には余裕を持って国境を越えましょう)
以上がパレスチナへの観光目的で渡航する際の簡単な情報でした。
パレスチナ情勢は頻繁に変化するので、必ず事前に最新の情報を収集してなるべく綿密な計画をして渡航しましょう!
参考文献・注意事項
- 当記事の内容は「世界遺産検定1級公式テキスト<上>」と「世界遺産検定1級公式テキスト<下>」を大いに参考にしています。
- 当記事は100%正しい内容を保証するものではありません。一部誤った記載が存在する可能性があることをあらかじめご了承ください。