こんな方にオススメの内容!
- 世界遺産の保護・保全・修復に関することを知りたい!
- そもそも「真正性」と「完全性」の意味を理解したい!
- 教養として世界遺産に関する知識を身につけたい!
- 世界遺産検定の受験を考えている!
当記事のポイント!
- 真正性の考え方に大きな影響を与えたのは”奈良文書”!
- 完全性は文化遺産&自然遺産両方に求められる概念!
- 真正性と完全性を理解することで世界遺産を見る視点が増える!
真正性(しんせいせい)とは?
「真正性」とは下記になります。
文化財に使われている素材などがそれぞれの文化的背景の独自性や伝統を継承している。
もっと簡単に言うと
「最新技術は使わずに当時の技術や材料を使いましょう」
というものです!
つまり、文化遺産の修復時や再建時に用いられる概念です。
例えば下記のようなイメージですね。
- 木造で建てられた寺院なのに修復の際に鉄筋コンクリートを使うのはNG
- 伝統的な建築技法で建てられたのなら再建時もその伝統建築技法を引き継ぐべき
そもそも世界遺産に登録される絶対条件として、現代や将来世代に受け継ぐような重要性を持つ遺産(顕著な普遍的価値)でなければなりません!
もし伝統や文化からかけ離れた行為をしてしまったら、その時点でこれまでの歴史に終了を告げてしまう行為になるのです。
重要性を継続させるためには、当時の伝統・文化・独自性を保つ必要があるのです!
「真正性」と「奈良文書」の関係
真正性の概念が定義された当時は、ヨーロッパの文化遺産が大半を占めていたため、ヨーロッパの文化遺産を基準とした考えが強く反映されていました。
しかし時が経つにつれて、世界遺産条約の締約国が増え世界中に文化遺産が誕生し始めると、”ある問題”が浮き彫りになりました。
その問題とは、国や地域によっては伝統的な建築技術・素材だと保護し続けることが難しいというものです!
例えば、昔ながらの木造建築は雨風等に弱いことが想定されます。
それにもかかわらず、これまでと同様の素材や技術を使って保存していけば、すぐに劣化する恐れがあり世界遺産そのものの存続が危ぶまれることが考えられます。
そこでこの問題を解決すべく誕生したのが、「奈良文書」です!
この文書の名前の由来は、1993年に日本の法隆寺が世界遺産に登録されたことがきっかけとなって奈良県で開かれた会議名、「真正性における奈良会議」から取られています。
つまり法隆寺の世界遺産登録が真正性を見直すきっかけとなったわけです!
奈良文書では下記のような主張が記されています。
遺産の保存は地理や気候、環境などの自然条件と、文化・歴史的背景などとの関係ですべきである。
要するに、状況を考えてやむを得ないと判断された場合は遺産の保有国の伝統的な保存技術や修正方法を使って真正性を保つことを許すというものです!
また、遺産の真正性が保たれるのであれば大規模な遺産の解体や再建も許されます。
ちなみに真正性や奈良文書は、「ヴェネツィア憲章」の考えが反映されています。
(ヴェネツィア憲章の詳細に関してはこちらの記事で解説してます)
真正性の影響を大きく受けた世界遺産の例
街全体が復元された「ワルシャワの歴史地区」
ではここで、真正性や奈良文書の影響を大きく受けた世界遺産をいくつか見てみましょう!
姫路城 | 伝統技術での修復だと明らかに保存を維持させるのに不適切であると判断 | 一部を鉄筋コンクリートを用いた修復に変更! |
ワルシャワの歴史地区 | 戦禍で荒れ果てたワルシャワの街を復元させるべく大規模な再建工事が行われた | 街全体の再建は真正性が完全に失われてしまう可能性があるため、ワルシャワの歴史地区での再建以降は遺産全ての再建を許可しない方針となった |
ワルシャワの歴史地区は、”ゼロからの再建”というイレギュラーな形で世界遺産登録が認められましたが、今後はゼロからの再建の世界遺産登録は認めないということです!
完全性(かんぜんせい)とは?
「完全性」とは下記になります。
世界遺産の顕著な普遍的価値を構成するために必要な要素が全て含まれており、長期的な保護のための法律などの体制も整えられている。
もっと簡単に言うと、「世界遺産登録に必要な項目が全て該当しつつ保護体制が整っている状態」というものです!
文化遺産のみに求められる真正性とは違い、完全性は文化遺産と自然遺産両方に求められる概念になります。
つまり世界遺産登録されるには、最低限「完全性」を満たさなければならないということです!
文化遺産・自然遺産両方に共通する完全性を証明する条件としては、具体的に下記が挙げられます。
- 顕著な普遍的価値が発揮されるのに必要な要素が全て優れているか
→要するに、現代や未来に受け継ぐ必要があるほどの重要性を持つ遺産かどうか - 遺産の重要性を示す特徴を不足なく代表するために、適切な大きさが確保されているか
→要するに、重要性を示す証拠が十分に残っているかどうか - 開発あるいは管理放棄による負の影響を受けていないか
→要するに、十分な保護体制が敷かれているかどうか
まとめると、「世界遺産登録にふさわしい条件が整いつつ、その条件を維持できる体制が整っているか」、これが証明できる必要があるわけです!
世界遺産登録に必要な条件をクリアしていても保護されていなければNG!
反対に、保護下には置かれているものの世界遺産としての価値が見られないものもNG!
こんな感じですね。
完全性を満たす文化遺産のポイント
完全性には文化遺産に絞った条件項目もあります。
- 遺産の劣化の進行のコントロールができているか
- 歴史的な街並みなどの生きた遺産の特徴や機能が維持されているか
- 景観に悪影響を及ぼすような開発が行われていないか
- 顕著な普遍的価値を示す時代と実際の資産の年代が一致しているか
- 価値を証明する資産がしっかりと構成資産に含まれているか
まとめると、「文化財が誕生した当時の状況を維持しつつ、世界遺産としての価値がある証明ができる状況か」ということになります。
完全性を満たす自然遺産のポイント
完全性には自然遺産に絞った条件項目もあります。
- 生物学的な過程や地形上の特徴が比較的無傷であるか
- 世界遺産登録範囲内での人間の活動は生態学的に持続可能なものか
まとめると、「人の生活に支障をきたすことなく今なお自然の価値が明確に見れる状況か」といった感じですね。
また文化遺産とは違い、自然遺産の完全性は各登録基準(vii)〜(x)ごとに条件が細かく分けられている点が特徴です!
(登録基準の詳細に関してはこちらの記事を参考にしてみてください)
わかりやすいように2つ具体例を挙げてみます。
登録基準(vii) | 世界遺産に登録された滝が属する川自体が登録範囲外であったとしても上流や下流部分までの保護が必要! |
---|---|
登録基準(x) | 渡り鳥の飛行ルートに障害物がなく保護体制が敷かれている! |
自然遺産の場合は文化遺産以上に保護体制の範囲が広くなるケースが多いため、適切な範囲までを保護していないと世界遺産としての価値が危ぶまれる危機に瀕する可能性があります。
本日の確認テスト
(「世界遺産検定」の概要についてはこちらの資料を参考にしてください)
2級レベル
「真正性」の定義を見直すきっかけとなった文書の名称として正しいものはどれか。
- 長崎文書
- 京都文書
- 奈良文書
- 広島文書
③
答え(タップ)>>1級レベル
「完全性」を証明する条件として誤っているものはどれか。
- 国や自治体からの了承を得て世界遺産に推薦されたという証拠が残っているか
- 顕著な普遍的価値が発揮されるのに必要な要素が全て優れているか
- 遺産の重要性を示す特徴を不足なく代表するために、適切な大きさが確保されているか
- 開発あるいは管理放棄による負の影響を受けていないか
①
答え(タップ)>>※「3,4級」レベルのトレーニングテストは対象外になります。
まとめ
- 真正性:文化遺産のみ / 完全性:全ての世界遺産
- 真正性の定義を見直すきっかけとなったのは法隆寺が世界遺産登録された翌年に採択された奈良文書!
- 完全性のポイントは世界遺産登録にふさわしい条件が整いつつ、その条件を維持できる体制が整っているかどうか!
参考文献・注意事項
- 当記事の内容は「世界遺産検定1級公式テキスト<上>」と「世界遺産検定1級公式テキスト<下>」を大いに参考にしています。
- 当記事は100%正しい内容を保証するものではありません。一部誤った記載が存在する可能性があることをあらかじめご了承ください。