こんな方にオススメの内容!
- なぜ白神山地が世界遺産に登録されたのか理由が気になる!
- ブナ林の基礎知識や魅力を知りたい!
- 白神山地に生息する動物や植物を知りたい!
- 教養として世界遺産に関する知識を身につけたい!
- 世界遺産検定の受験を考えている!
- 東北への旅行を考えている!
遺産ポイント
- 貴重なブナの原生林が残っている点が世界遺産登録する上での最大の評価ポイント
- 日華植物区系に分類される「アオモリマンテマ」など多くの固有種が生育している
- 「ニホンカモシカ」「クマゲラ」など天然記念物に指定されている貴重な動物が生息する
「白神山地」のプロフィール
登録名称 | 白神山地 |
---|---|
登録年 | 1993年 |
所在国 | 日本(青森県 / 秋田県) |
登録ジャンル | 自然遺産 |
登録基準 | (ix) |
備考 | 日本で最初に登録された4つの世界遺産の内の1つ |
そもそも「白神山地」とは?ブナとは?
白神山地とは、青森県の南部と秋田県の北部にまたがって広がる山地です。
そんな白神山地に多く生育している代表的な木の種類が「ブナ」です。
ブナは大昔から現代に至るまで、長年日本に生育していた木の種類です。
つまり、ブナは日本を代表する木の一つと言っても過言ではありません。
日本全国に点在するブナ林ですが、特に白神山地のブナ林は非常に貴重であるため世界遺産に登録されたのです。
(具体的にどのような点が貴重と言われる理由なのかは、後述の「ブナの原生林が広がる世界的に見ても貴重な地域で詳しく解説します)
ちなみにブナは、「落葉樹」と言われる木に分類されます。
簡単に言うと、一定期間で葉っぱが枯れて地面に落ちるサイクルを繰り返す木のことです。
紅葉スポットに出かけた際に、地面に紅葉した葉っぱがたくさん落ちている周辺の木を見れば、そのほとんどが落葉樹に当てはまる木になります。
葉っぱが地面に落ちることで、主に下記のような恩恵を得ることができます。
- 落ち葉が虫や小動物の住処になる。
- 微生物の働きにより落ち葉が分解され貴重な土の養分となりさらにブナなどの植物が生いしげる。
- ②の栄養たっぷりな土壌が川や海に流れて水域にまで動植物の繁殖をもたらす。
つまり落ち葉は、動植物の多様性を育んだり、その地域の良質な土を生み出したりする役割を持つのです!
世界遺産登録理由
雪化粧をした冬の白神山地
白神山地が世界遺産登録された理由は、大きく分けて下記の2つになります。
- ブナの原生林が広範囲に生いしげる
- 様々な動植物が生息する
特に「ブナ」は最重要ワードです。
そんなブナが生いしげる白神山地は全体が世界遺産に登録されているわけではありません。
- 白神山地の総面積:1,300km²(東京23区の面積の約2倍)
- 世界遺産登録範囲:169.71km²(大田区+世田谷区+足立区の総面積とほぼ同じ)
世界遺産登録範囲は白神山地全体の約1/8ほどです。
そしてこの1/8の面積に、白神山地に存在する原生林の多くが生育しているのです!
ちなみに白神山地は、日本で初めて世界遺産が誕生した4つの遺産の中の一つです!
ブナの原生林が広がる世界的に見ても貴重な地域
美しく紅葉している秋の白神山地
まず原生林とは、天然林という表現もできます。
そして天然林は、人の手が一切入っていない林を指します。
つまり、白神山地のブナは人の手入れが全く行われていないありのままの自然環境で育ってきたのです!
白神山地の原生ブナ林は、国内のみならず世界的に見ても貴重です。
地球上見渡しても、白神山地ほど天然のブナ林が広範囲に広がっている地域はほとんどありません。
仮にブナ林があったとしても、ブナの面積や密度が小さく、各地域に点在するように生育しているケースが多いのが実情です。
日本が世界有数のブナ大国になった理由
日本に多くのブナが生育している最大の理由は、氷河期から逃れることができたからです!
もともとブナ林は、日本以外にも世界各地に存在していました。
その”もともと”という時期は、氷河期がやってくる以前の話です。
【日本にブナが多く残った経緯】
- 日本全国にブナ林が広がっている
- ↓
- 氷河期がやってくる
- ↓
- 寒さから逃れるためにブナが日本の南部に逃げる
- ↓
- 氷河期が終わり日本の北部の気温が徐々に上昇する
- ↓
- 再び日本全国にブナが点在する
さらに、現在の白神山地がある地域に多くのブナが残っているもう一つの理由は、暖かい海(暖流)の存在です!
氷河期では、日本と朝鮮半島が氷で覆われていて繋がっている状態でした。
しかし氷河期が終わり氷が溶けたことで、暖かい海(暖流)が日本海を北上していきます。
その結果、日本海に面する白神山地はブナの生育地としてベストコンディションになったのです。
青森県側の「十二湖」周辺に広がるブナの自然林の道
なお白神山地のブナ林は、なんと今から約100万年前から存在していたと考えられています。
そして現在の白神山地で見られるブナ林は約8,000年前のものとされ、氷河期を乗り越えて戻ってきたのです。
また、特に白神山地に多くのブナの原生林が残されている理由は、他にも下記が挙げられます。
- 人が暮らす地域から十分に離れている
- 地形が急で人の立ち入りが難しかった(伐採したくてもできる状況ではない)
ヨーロッパのブナ林との違い
ヨーロッパで最も多くのブナを見ることができる「カルパティア山脈」
前述の「日本が世界有数のブナ大国になった理由」でも少し触れたように、かつては世界各地にブナ林が存在してました。
中でも数多くの「ヨーロッパブナ」が見られるヨーロッパ地域では、現在でもブナ林の姿を観察することができます。
ここで白神ブナとヨーロッパブナの違いを見てみましょう!
ヨーロッパ | 白神山地 | |
---|---|---|
氷河期の影響 | 非常に受けた | 最小限 |
分布 | 国境を超えて広範囲に点在 | 一定の地域に密度濃く生育(単一の面積としては世界最大級) |
ブナの種類 | 地域ごと様々な種類のブナが生育 | 限られた種類のブナが生育(主にシロブナ) |
伐採状況 | 地域によっては行われた | 全く行われていない |
現在見られるブナの歴史 | 約2,000年前 | 約8,000年前 |
そもそも白神山地のブナ林は極相林(きょくそうりん)と呼ばれ、種類や構造が大きく変化しない特徴を持っています。
反対にヨーロッパのブナ林は、氷河期後に各地域に適した形でブナが生育している点が大きく評価されています。
なおヨーロッパのブナ林に関しては、下記の記事で詳しく解説しているので、ぜひ併せて読んでみてください。
合わせて読みたい!【カルパティア山脈とヨーロッパ各地のブナ林】世界遺産登録の理由をわかりやすく解説!貴重な動植物が生息する
比較的遭遇率が高い「ニホンザル」
白神山地に生息するのは、なにもブナだけではありません。
ブナ以外の動植物の生息においても、世界遺産登録に大きく関わる評価を得ているのです!
むしろ他の動植物の生息のおかげで、現在でもブナの生息に適した環境が整っていると言っても過言ではありません。
白神山地の植物相(生育する植物)
【白神山地に生育する主な植物】
- アオモリマンテマ(固有種)
- オガタチイチゴツナギ(準固有種)
- ツガルミセバヤ(準固有種)
白神山地に生育する植物の最大の特徴は、地球全体の植物の生育地域を37に分けたうちの一つである「日華植物区系(にっかしょくぶつくけいく)」にあたる植物が大半を占めている点です!
さらに、白神山地の植物たちは、氷河期などを乗り越え独自の進化を遂げたものばかりです。
例えば、準固有種である「オガタチイチゴツナギ」は、現在も進化の途中にあると考えられています。
つまり、植物の進化過程を研究する環境としてもとても貴重なのです!
ちなみに白神山地では、年間1.3mmという極めて早いペースで土地の隆起が起こっています。
そんな地形の変化が激しい白神山地は、堆積岩(たいせきがん)という崩れやすい性質の岩で覆われているため、度々地滑りが発生しています。
このように地形がどんどん変わっていき、結果的に谷や川がつくられて、現在の白神山地の形が誕生したのです。
白神山地の動物相(生息する動物)
【白神山地に生育する主な植物】
- ニホンカモシカ(特別天然記念物)
- クマゲラ(天然記念物)
- イヌワシ(天然記念物・絶滅危惧)
- ツキノワグマ
- トウホクウサギ
白神山地は、植物の豊富さだけが自慢ではありません。
哺乳類、鳥類、昆虫、爬虫類など、幅広く多くの種類の動物が生息している点も大きな特徴なのです!
多種多様な動植物が生息するため、”動植物のサンクチュアリ(聖域)”と呼ばれているほどです。
そして当然多くの動物が生息できる背景には、山に栄養の恵みをもたらしてくれるブナなどの豊富な植物の存在があってこそなのです。
白神山地の課題・問題点
美しいブナ林にも少しずつ危機が迫っている
現在の白神山地では、「環境保護・保全」「情報発信」といった点で、下記のような課題・問題点を抱えています。
過疎化・高齢化によるガイドの減少(人材育成) | |
---|---|
原因 | 秋田県や青森県の人口減少。若者の都心への移住 |
影響 | 白神山地の情報・魅力の発信ができなくなる |
ニホンジカの増加による生態系の崩れの懸念 | |
原因 | 地球温暖化などによる環境の変化(本来は雪の多い環境には生息できないはず) |
影響 | 繁殖力が強く食欲旺盛なため白神山地の動植物が被害を受ける |
ブナ原生林の減少 | |
原因 | 地球温暖化によって生育できる面積が減った |
影響 | 世界遺産としての価値が薄れる |
白神山地の環境は確実に少しずつ変わってきてしまっています。
環境保護・保全のためにも、また白神山地の情報・魅力発信のためにも、白神山地に関わる人材を増やしていくことが目先の課題になってきます。
本日の確認テスト
(「世界遺産検定」の概要についてはこちらの資料を参考にしてください)
3, 4級レベル
白神山地に生育し世界遺産登録の評価対象になった樹木の名称として正しいものはどれか。
- クヌギ
- マツ
- スギ
- ブナ
④
答え(タップ)>>2級レベル
白神山地に生育・生息する固有種・天然記念物の名称として誤っているものがどれか。
- ニホンカモシカ
- クマゲラ
- アオモリマンテマ
- ワオキツネザル
④
答え(タップ)>>1級レベル
白神山地の説明として正しいものはどれか。
- 地球全体の植物の生育を8区分に分けた中の1つの区分である「熱帯植物区」に属する。
- ブナ林はここ数百年の間に生育した日本でも比較的新しい樹木である。
- 年間1.3mmという極めて早いペースで土地の隆起が起こっている。
- 植物相は多く見られるが動物相はあまり多く見られない。
③
答え(タップ)>>まとめ
- 白神山地には人の手が加えられていないブナの原生林が広範囲に残っている。
- 氷河期を残りこえたことで日本は世界有数のブナ大国になった。
- 現在みられるブナ林は約8,000年前のもの。
- 白神山地のブナ林は種類や構造が大きく変化しない極相林に分類される。
- 「アオモリマンテマ」「オガタチイチゴツナギ」など日華植物区系に分類される貴重な植物が生育している。
- 年間1.3mmという極めて早いペースで土地の隆起が起きている。
- 「ニホンカモシカ」「クマゲラ」など天然記念物に指定されている貴重な動物も生息する。
- 人材不足や地球温暖化による環境の変化など様々な問題を抱えている。
おまけ:「白神山地」のプチ観光情報
一般の方でも散策できるエリアにはベンチや遊歩道が整備されている
最寄り空港 | 青森県側:青森空港 秋田県側:大館能代空港 |
---|---|
ベストシーズン | 6〜11月上旬 |
料金 | 無料 ※場所によって駐車料金がかかる程度 |
主な宿泊施設 | アクアグリーンビレッジANMON、グリーンパークもりのいずみ、ブナの里白神館 |
主な観光スポット | 世界遺産の径 ブナ林散策道、12湖(青池など)、大崩展望台 |
白神山地観光のベストシーズンは6〜11月上旬です。
反対に12〜4月は、積雪のためブナ林散策などが困難になるため、あまりオススメはできません。
白神山地へのアクセス
白神山地へのアクセス方法は、大きく「公共交通機関」「車(レンタカー)」の2つに分けられます。
○公共交通機関利用の場合
- 新青森駅 ⇨ 弘前駅 駅前バスターミナル ⇨ アクアグリーンビレッジANMON (所要時間:約1時間)
○車(レンタカー)の場合
- 青森空港 ⇨ 白神山地ビジターセンター (所要時間:約50分)
- 大館能代空港 ⇨ 白神山地世界遺産センター藤里館 (所要時間:約30分)
- 通行止め、一方通行には要注意。
基本的には車で訪れることを強くオススメします。
広大な白神山地にはいくつもの観光スポットが点在しているため、効率よく周るのであれば車一択になります。
見どころ①:世界遺産の径 ブナ林散策道
「世界遺産の径」の入り口(入山無料)
- 世界遺産登録エリアに含まれている。
- 最短で30分ほどで散策できる遊歩道を完備。
- 公共交通機関を利用して訪れることができる。
「せっかくなら世界遺産のブナ林を散策したい」
この願いを叶えてくれるのが「世界遺産の径 ブナ林散策道」です!
世界遺産に登録されるとあまり人の手を加えることができなくなるため、誰でも気軽に散策できる遊歩道としては大変貴重です。
なお、公共交通機関でも訪れることができる数少ない観光スポットの一つでもあります。
青森県側の白神山地にある、総合キャンプ場「アクアグリーンビレッジANMON」から徒歩で訪れることができ、キャンプ場までは弘前駅前のバスターミナルからバスに乗ればOKです。
見どころ②:十二湖(青池、沸壺の池、他)
十二湖の中でも最も人気のある「青池」は午前中に訪れるのがおすすめ
- 白神山地屈指の人気観光スポット。
- 真っ青な池の数々は幻想的な世界。
- 散策道の入り口付近に位置しているためアクセスが容易
SNSなどで話題沸騰中の美しい池が見られるのが、「青池」や「沸壺の池」などを含む十二湖です。
青く澄んだ美しい池を見るために、白神山地を訪れた多くの観光客が訪れます。
散策道の入り口から比較的近くにあるため、時間にあまり余裕のない方でも気軽に訪れることができます。
ただし、残念ながら12湖は世界遺産登録範囲には含まれていません。
とはいえ、息を呑むほど美しい池は一見の価値ありです!
見どころ③:津軽峠(つがるとうげ)
入山のできない世界遺産の核心地域の山々を望むことができる「津軽峠」
- 白神山地の世界遺産核心地域を見ることができる数少ない展望スポット。
- 車やバスでアクセスが可能。
白神山地の世界遺産核心地域(世界遺産に登録されているエリア)を見たいのであれば、必ず津軽峠の展望台を訪れましょう!
残念ながら核心地域は人の出入りが固く禁じされているため、なかなか近づくことができません。
そのため、標高の高い場所から望む必要があります。
中でも津軽峠は車やバスでアクセスが可能なため、非常に訪れやすいのが魅力です!
見どころ④:マザーツリー
ブナの平均樹齢を超える樹齢400年の「マザーツリー」
- 白神山地に生育するブナの中で特に樹齢の長いシンボル的な存在のブナ。
- 比較的近くまで(津軽峠まで)車でアクセスすることが可能。
- 近年の暴風雨の影響で一部の幹が折れてしまった。
数ある白神山地のブナの中でも、特に樹齢が長く、一度は見る価値のあるブナこそ「マザーツリー」です!
前述した「見どころ③:津軽峠(つがるとうげ)」から徒歩5分ほどで訪れることができるため、津軽峠とセットで訪れる観光客が多いですね。
残念ながら、近年の暴風雨によって幹の一部が折れてしまいましたが、それでも人間より太い幹を持つ圧巻の姿は一見の価値ありです。
参考文献・注意事項
- 当記事の内容は「世界遺産検定1級公式テキスト<上>」と「世界遺産検定1級公式テキスト<下>」を大いに参考にしています。
- 当記事は100%正しい内容を保証するものではありません。一部誤った記載が存在する可能性があることをあらかじめご了承ください。