こんな方にオススメの内容!
- 「負の世界遺産」とは何なのか知りたい!
- 負の世界遺産という概念が誕生した理由が気になる!
- 教養として世界遺産に関する知識を身につけたい!
- 世界遺産検定の受験を考えている!
- ダークツーリズムに興味がある!
遺産ポイント
- 負の遺産に明確な定義はない!
- 負の遺産という概念が誕生した背景は「人類が犯してきた過ちを繰り返さない」ため!
負の遺産とは
負の遺産とは下記を指します。
近現代の戦争や紛争、人種差別など、人類が犯した過ちを記憶にとどめ教訓とする遺産
要するに、過去の間違った出来事を今後繰り返さないようにするために、関連する建物などを保存しておくことになります。
そもそも、負の遺産は世界遺産条約では明確に定義がされていません。
つまり、「どの遺産を負の遺産として登録する」といった基準や条件が無いのです!
ただし、現在負の遺産として登録されている世界遺産から考えると、大きく分けて下記の2つが登録の基準に該当するとされています。
- 戦争にまつわるもの
- 人種差別の歴史に関わるもの
つまり、負の遺産の具体的な役割としては下記が考えられます。
- 地球上から戦争や紛争を無くす。
⇨武力で解決しようとすることはやめよう! - 地球上から人種差別を無くす。
⇨地球上にいるすべての人間には人権がある!
このように、負の遺産は過去の黒歴史を振り返って、現在起きている間違った出来事や考え方を見直すきっかけを作っているとも言えます。
ちなみに負の遺産の多くが、無形の出来事を評価する世界遺産登録基準の(vi)を満たしています。
(登録基準の詳細に関しては、こちらの記事で詳しく解説してます)
また、世界で最初に世界遺産に登録された物件の中に、負の遺産である「ゴレ島」が入っています。
これはつまり、世界遺産条約が誕生した時から、負の遺産という概念が組み込まれることを想定していたと考えられます。
ダークツーリズムとは
世界中から観光客が訪れるポーランドの負の遺産「アウシュビッツ強制収容所」
負の遺産とはいえ、大きなくくりとしては世界遺産です。
それはつまり、世界遺産に登録されることで、その遺産目的に訪れる観光客が増えることに繋がります。
このように、負の遺産を訪れることを「ダークツーリズム」と言います。
一見、非常識なワードにも聞こえますが、ダークツーリズムが行われることで下記のようなメリットも出てきます。
- 世界遺産に登録されることで、世界からの認知度が上がる。
↓ - 負の遺産目的で訪れる人が増える。
↓ - 訪れた人が負の歴史の事実を理解する。
↓ - 負の遺産を訪れた人が情報や経験をシェアする。
↓ - 負の遺産が持つ歴史的事実がさらに世界中に広がる。
↓ - 「戦争や人種差別は間違った行為」という考えが誕生する。
↓ - 戦争・人種差別反対派が増えて過った行為が減り始める。
つまり、本来の負の遺産の目的であった、「人類が犯した過ちを記憶にとどめ教訓とする」ことに大きく繋がっているのです!
負の遺産が存在するデメリット
日本が保有する負の遺産「原爆ドーム」
前述の「ダークツーリズムとは」で触れたように、負の遺産が誕生することで得られるメリットは大きいです。
しかし一方で、負の遺産が存在することによって生まれるデメリットが少なからずあります。
代表的なデメリットとしては、悲惨な出来事の体験者が精神的苦痛を味わい続ける懸念があることです!
「あのような辛い体験を思い出したくないから建物は取り壊してほしい」
このように実際に負の歴史を経験した人にとっては、建物を見るだけでフラッシュバックのように記憶が蘇ってしまいます。
このような理由から、負の遺産として世界遺産に登録するかどうかは非常に難しい問題なのです。
とはいえ、最終的に負の遺産として世界遺産に登録されたのであれば、悲惨な出来事の歴史を将来世代に正しく伝え、平和な世界への実現に尽力を注ぐ必要があります!
負の遺産の一覧
南アフリカの都市ケープタウンの沖合に浮かぶ「ロベン島」
現在登録されている負の遺産の多くが、「16〜20世紀」の歴史に関わっている物件がほとんどです。
その背景としては、この時代に多くの戦争や人種差別が行われてきたからです。
それでは現在登録されている負の遺産を見ていきましょう。
所在国 | 世界遺産名称 | 登録年 |
---|---|---|
戦争にまつわるもの | ||
ポーランド | アウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所 | 1979年 |
日本 | 原爆ドーム | 1996年 |
アフガニスタン | バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群 | 2003年 |
ボスニア・ヘルツェゴビナ | モスタル旧市街の古い橋の地区 | 2005年 |
マーシャル諸島 | ビキニ環礁核実験場 | 2010年 |
人種差別の歴史に関わるもの | ||
セネガル | ゴレ島 | 1978年 |
ガーナ | ヴォルタ州、グレーター・アクラ州、セントラル州、ウェスタン州の城塞群 | 1979年 |
タンザニア | キルワ・キシワニとソンゴ・ムナラの遺跡群 | 1981年 |
ザンジバル島のストーン・タウン | 2000年 | |
南アフリカ | ロベン島 | 1999年 |
ガンビア | クンタ・キンテ島と関連遺跡群 | 2003年 |
モーリシャス | アープラヴァシ・ガート | 2006年 |
ル・モーンの文化的景観 | 2008年 | |
オーストラリア | オーストラリアの囚人遺跡群 | 2010年 |
アフリカ大陸に負の遺産が多い理由
負の遺産として扱われている遺産の多くがアフリカにあります。
その理由を理解するためにも、負の遺産が生まれる背景について確認しましょう。
負の遺産が生まれる要因は
- 歴史的要因
- 地理的要因
主に上記の2つがあります。
【歴史的要因】
- 戦争や人種差別が行われた歴史がある。
- 地域問わずどこでも負の遺産が生まれる可能性がある。
【地理的要因】
- 戦争や人種差別が行われやすい位置に国土がある。
- 貿易拠点となる地域で負の遺産が生まれやすい(アフリカ、オセアニアなど)。
特に負の遺産が最も多い地域であるアフリカは、この「歴史的要因」と「地理的要因」の両方を満たしています。
わかりやすい例が、三角貿易(奴隷貿易)です。
さらに乾燥した大地が続くアフリカ大陸では、経済発展のベースとなる農作物の生産に不向きです。
そのため経済発展が遅れ、欧米諸国の言いなりのような構図が誕生してしまったのも要因の一つです。
上記のような背景から、アフリカ大陸経由での三角貿易(奴隷貿易)という暗い歴史が生まれ、それに関連する負の遺産も生まれてしまったのです。
またその他で負の遺産に大きく関わっているのが、「第一次・第二次世界大戦」のような大きな戦争です。
この戦争に関わった(または巻き込まれた)国にも、戦争のつめ跡として負の遺産が誕生しているケースがあります。
このように、負の遺産が生まれる要因を理解することは、地球上の歴史や地理を理解することにも繋がるのです!
本日の確認テスト
(「世界遺産検定」の概要についてはこちらの資料を参考にしてください)
3・4級レベル
負の遺産に認められやすい登録基準として正しいものはどれか。
- (ii)
- (iv)
- (v)
- (vi)
④
答え(タップ)>>2級レベル
負の遺産の説明として正しいものはどれか。
- 世界遺産条約では明確に負の遺産は定義されていない。
- 2022年時点で南アメリカ大陸には2件の負の遺産が存在する。
- 負の遺産の歴史的背景を理解するためにも観光で訪れる「ブラックツーリズム」が有効である。
- 負の遺産が登録され始めたのは1990年以降である。
①
答え(タップ)>>1級レベル
負の遺産に該当する世界遺産として誤っているものはどれか。
- モスタル旧市街の古い橋の地区
- ロベン島
- ビニャーレス渓谷
- ル・モーンの文化的景観
③
答え(タップ)>>まとめ
- 負の遺産とは主に、近現代の戦争や紛争、人種差別など、人類が犯した過ちを記憶にとどめ教訓とする遺産を指す!
- 負の遺産は世界遺産条約によって明確に定義がされていない!
- 負の遺産の観光目的で訪れることを「ダーク・ツーリズム」と言う!
- 実際に悲惨な経験をした人の立場から考えると、必ずしも負の遺産として保存することが良いとは考えられない!
- 歴史的・地理的要因によって、負の遺産はアフリカ大陸に多い傾向がある!
参考文献・注意事項
- 当記事の内容は「世界遺産検定1級公式テキスト<上>」と「世界遺産検定1級公式テキスト<下>」を大いに参考にしています。
- 当記事は100%正しい内容を保証するものではありません。一部誤った記載が存在する可能性があることをあらかじめご了承ください。