こんな方にオススメの内容!
- 世界遺産がどのように保護されているのか具体的に理解したい!
- 世界遺産に関する問題点を知りたい!
- 「ボン宣言」「ハーグ条約」などの専門用語を理解したい!
- 教養として世界遺産に関する知識を習得したい!
- 世界遺産検定の受験を考えている!
ポイント
- 会議が開催された都市名がそのまま条約や宣言の名前になるケースが多い!
- 保護・保全に対する考え方は年々変化しているため条約などの記載内容も更新されていく!
- 自然や都市景観を第一に、次に人間の生活を考慮する考え方が多い!
ハーグ条約
オランダ・ハーグの街並み
採択のタイミング | オランダのハーグにて開かれたユネスコ主催の会議(1954年) |
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開始年 | 1956年 |
役割 | 紛争から文化財を守る! |
ハーグ条約が採択された大きな要因は、20世紀以降に大きな戦争や民族間での紛争が多発している状況を踏まえて文化財を厳重に保護する体制が必要と考えられたからです!
後述で紹介する「ボン宣言」と内容が似ていますが、ハーグ条約は文化財(文化遺産)に焦点を置いているところがポイントです。
また、ハーグ条約自体はすでに1899年に採択されており、今回紹介するハーグ条約の内容は既存のハーグ条約に追記されたイメージですね。
今回取り上げるハーグ条約の内容は、国際紛争や内戦、民族紛争などから文化財を守るための基本方針を定めています。
その基本方針の主な内容は以下の通りです。
- 文化財やその文化財を保護する施設などを戦争などの目的で使用してはいけない。
- 文化財の窃盗や略奪をしてはいけない。
- 平時(戦争がない時期)であっても文化遺産、美術館、図書館を保護することを義務とする。
ちなみにハーグ条約は1954年に第一議定書が、1999年に第二議定書が発表されており、常時内容を更新していってます。
ラムサール条約
ラムサール条約に登録されているアメリカの世界遺産「エバーグレーズ国立公園」
採択のタイミング | イランのラムサールで開かれた国際会議(1971年) |
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開始年 | 1971年 |
役割 | 水鳥の生息地を保全する! |
自然環境を保護するような条約はいろいろとありますが、ラムサール条約は水鳥の生息に重点を置いた取り組みになります。
具体的な取り組みとしては下記が挙げられます。
- 湿地の生態系や生物多様性を保護する(湿地に生息する生物の環境を壊さない)。
- 湿地の調査や保全のための措置を取る。
- 適正な範囲で湿地を利用する計画を立てる。
ラムサール条約に指定されている主な名称・世界遺産
ラムサール条約に登録されているヨーロッパ最大の湿地帯「ドナウデルタ」
国内(世界遺産は宮島のみ) | 海外(全て世界遺産) |
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釧路湿原(北海道) | クルスキー砂州(オランダ、デンマーク、ドイツ) |
尾瀬国立公園(群馬県) | エバーグレーズ国立公園(アメリカ) |
琵琶湖(滋賀県) | バンダルガン国立公園(モーリタニア) |
宮島 | ドナウデルタ(ルーマニア) |
久米島の渓流・湿地(沖縄県) | カカドゥ国立公園(オーストラリア) |
人間環境宣言(ストックホルム宣言)
宣言が採択された会議が開かれたストックホルムの街並み
採択のタイミング | スウェーデンの首都ストックホルムで開催された「国際連合人間環境会議」(1972年) |
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開始年 | 1972年 |
役割 | 自然への保護や自然環境に脅威を与える開発の防止をする! |
人間環境宣言は国際社会が初めて開発問題と環境保全の取り組みについてまとめたものです。
人間環境宣言は後に採択される世界遺産条約の前身というイメージです。
なぜなら自然を保護するこの人間環境宣言と文化財を保護する条約がまとめられて世界遺産条約が誕生したからです!
(なお世界遺産条約の詳細に関しては別記事の「【世界遺産とは?世界遺産条約とは?】世界遺産の超基礎情報を小学生でもわかるように解説!」で解説してます)
自然環境が脅かされる原因は数多くありますが、人間環境宣言ではその中でも開発による脅威を重点に置いているところがポイントです。
具体的な開発による脅威とは下記などが挙げられます。
- 開発に必要な木材を確保するために森林を伐採する。
- 開発によって発生した大気汚染が自然環境へ悪影響を与えてしまう。
- 開発によって動植物が生息する地域が減ってしまう。
ただし人間環境宣言は国によって適用される内容が異なります。
その国の分け方とは「先進国」or「途上国」です。
マイナスな意味で環境に大きな影響を与えているのは、数多くの開発を続ける先進国です。
一方で途上国は先進国とは反対に開発が不十分な状態であるため、まずは国民の生活環境を整えることが大切です。
要するに、開発が進む先進国は積極的に自然環境を保護することを優先し、反対に途上国はまずは自分たちの生活環境を整える開発を優先しても良いというニュアンスですね。
ただ上記のような適用の違いが発生していることから、先進国と途上国との間で対立が発生しているという問題点があることも事実です。
先進国も途上国も自然環境に悪影響を与えない開発を進められる世界を目指すことが目標となります。
歴史的都市景観の保護に関する宣言(ウィーン・メモランダム)
宣言が採択されるきっかけとなった街のオーストリアの首都ウィーン
採択のタイミング | 世界遺産条約締約国会議(2005年) |
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開始年 | 2005年 |
役割 | 歴史的景観に配慮した現代建築物の建造ができているかチェックする! |
ウィーン・メモランダムは歴史的な景観を保護するために採択されました。
そもそも「歴史地区」や「旧市街」という登録名称の文化遺産は、街がつくられた時代の面影が現在も残っている点が世界遺産登録の大きな要因です。
つまり言い方を変えると、歴史的な街並みの面影が失われてしまうと世界遺産として相応しくないわけです!
もちろんウィーン・メモランダムが採択された背景にはとあるきっかけがあります。
そのきっかけとはオーストリアの首都ウィーンで起きた都市開発問題です!
ウィーンの都市開発問題とは、歴史地区として世界遺産に登録されているウィーン市内にある中央駅で都市開発をするというものです。
当然ながら世界遺産に登録される要因となった”歴史的な街並み”が都市開発によって失われる懸念があったため大きな問題になったわけです。
都市開発計画が上がっていたウィーンでは「ウィーン歴史地区」を危機遺産登録にする話も上がっていたほどです。
(”危機遺産”に関しては別記事の「【危機遺産とは?】目的や登録される諸条件を初心者にもわかりやすく解説!」で詳しく解説してます)
このウィーンの都市開発問題による影響もあり、現在は文化財を世界遺産に登録する際には下記のような注意点が挙げられています。
- 歴史的都市景観の概念を推薦書等の保護計画に含む。
- 世界遺産の顕著な普遍的価値の保護はどんな保護方針や運営方針よりも中心に考えられるべき。
こうすることで、世界遺産に登録された後に行われた都市開発などでトラブルが発生することを防ぐことに繋がります。
あくまでも景観を考慮することが大前提ということです。
なので景観を考慮していれば、生活環境や利便性を確保して人々の生活の質や生産性を向上させる目的の都市開発は許されるわけです。
景観を考慮する > 人々の生活を豊かにする
このようなに景観を尊重することが優先されるイメージですね。
ボン宣言
宣言が採択された会議が開かれたドイツ・ボンの全景
採択のタイミング | ドイツのボンで開かれた世界遺産委員会(2015年) |
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開始年 | 2015年 |
役割 | 人による遺産の破壊や自然災害からの被害を食い止める! |
ボン宣言が採択された大きな要因は、近年、紛争や自然災害によって遺産が脅威にさらされている点です!
具体的な脅威とは下記などが挙げられます。
- IS(イスラム国)や武装集団による遺産の破壊
- ネパールで発生した大地震による遺産への被害
前述で触れた「ハーグ条約」と内容が似ていますが、ボン宣言は文化財・自然両方の保護に関わる内容を記している点で大きく異なります。
もちろん採択されただけでは被害を抑えることができません。
現在遺産の破壊を行なっている武装集団や国際社会に協力を呼びかける必要があります!
その主な協力とは以下の通りです。
- 武装集団に遺産への破壊を止めるよう求める。
- 世界遺産条約を結んでいる国に対してお金や技術の援助を求める。
- 世界遺産条約を結んでいる国に対して不法に文化財を取引することを止めるよう求める。
まとめると、ボン宣言はこれ以上の遺産の被害をできる限り小さくするための取り組みになります!
その他の世界遺産の保護・保全に関する取り組み&補足
歴史上何度も修復工事が行われてきたロンドンの「ウエストミンスター宮殿」
「ハーグ条約」「ラムサール条約」「人間環境宣言(ストックホルム宣言)」「歴史的都市景観の保護に関する宣言(ウィーン・メモランダム)」「ボン宣言」の他にも細かく分けると他にも保護・保全に関する取り組みがあります。
- 公的又は私的な工事によって危機にさらされる文化財の保存に関する勧告(1968年)→文化財はその国の個性を作り上げているため、社会的・経済的な発展による変化との調和を図りながら保護する。
- 文化財の不法な輸入、輸出及び所有権譲渡の禁止並びに防止に関する条約(1970年)→保護管理体制の不備によって盗難された文化財の密貿易を禁止する。
世界遺産は登録される前もされた後も常に保護・保全を続けることが重要なのは言うまでもありません。
しかし一方で、保護・保全の体制の仕方や認識の違いによって問題が発生することもあります。
問題を事前に防ぐためにも、具体的、且つ人々の生活も考慮した取り組みを決めていく必要があるわけです。
以上のことから、世界遺産と人々の生活は切っても切り離せない関係です!
世界遺産の保護・保全への関心は、自分たちの生活について考える良いきっかけになりますね。
本日の確認テスト
(「世界遺産検定」の概要についてはこちらの資料を参考にしてください)
2級レベル
都市開発が問題となり『歴史的都市景観の保護に関する宣言』が採択されるきっかけとなった都市として正しいものはどれか。
- ローマ
- ウィーン
- プラハ
- アムステルダム
②
答え(タップ)>>1級レベル
『ハーグ条約』に関する説明として正しいものはどれか。
- 国際紛争や内戦、民族紛争などから文化財を守るための基本方針を定めている。
- 水鳥の生息地を保全するために湿地の生態系と生物多様性を保護するために採択された。
- 国際社会が初めて開発問題と環境保全についての取り組みや原則をまとめたもの。
- 武装集団に遺産の破壊の停止を求めたり、世界遺産条約の締約国に対して財政・技術援助を求めたりしている。
①
答え(タップ)>>※「3,4級」レベルのトレーニングテストは対象外になります。
「世界遺産保護に関する具体的な取り組みや問題点」のまとめ
- ハーグ条約は国際紛争や内戦、民族紛争などから文化財を守るための基本方針を定めている!
- ラムサール条約は水鳥の生息に重点を置いた取り組み!
- 人間環境宣言(ストックホルム宣言)は開発による脅威に対して保護する取り組みをまとめたもの!
- ウィーン・メモランダムは都市景観の保護を目的に採択されたが、人間の生活環境も考慮に入れるべきであるとされている!
- ボン宣言は武装集団などによる文化財の破壊や自然破壊を止めるように呼びかけるもの!
参考文献・注意事項
- 当記事の内容は「世界遺産検定1級公式テキスト<上>」と「世界遺産検定1級公式テキスト<下>」を大いに参考にしています。
- 当記事は100%正しい内容を保証するものではありません。一部誤った記載が存在する可能性があることをあらかじめご了承ください。