こんな方にオススメの内容!
- なぜ「アブ・シンベル神殿(ヌビアの遺跡群)」が世界遺産に登録されたのか理由が気になる!
- 神殿群の移築問題(ダム建設)の詳細が知りたい!
- 教養として世界遺産に関する知識を身につけたい!
- 世界遺産検定の受験を考えている!
- アフリカやエジプトへの旅行を考えている!
遺産ポイント
- 世界遺産登録範囲は「アブシンベル+フィラエ」周辺の遺跡群!
- アブ・シンベル神殿などの主要な遺跡はラメセス2世によって建造された!
- 世界遺産誕生のきっかけとなった遺跡群の保護政策!
「アブ・シンベル神殿(ヌビアの遺跡群)」のプロフィール
登録名称 | ヌビアの遺跡群:アブ・シンベルからフィラエまで |
---|---|
登録年 | 1979年 |
所在国 | エジプト |
登録ジャンル | 文化遺産 |
登録基準 | (i)(iii)(vi) |
備考 | 世界遺産創設のきっかけとなった遺跡群 |
そもそも登録名称の「アブ・シンベル」「フィラエ」とは
巨大なラメセス2世の像が立つ「アブ・シンベル神殿」
「アブ・シンベル」「フィラエ」とは、世界遺産に登録されている遺跡群がある場所を指しています!
具体的な場所としては、エジプトを流れるナイル川の上流のヌビア地方です。
「アスワン」という都市がヌビア地方の中心都市です。
このアスワンから南へ約280km行ったことろにアブ・シンベル神殿があります。
一方のフィラエは、アスワンから南へ約10km行ったナイル川内の島を指します!
世界的にはアブ・シンベル神殿の知名度が高いですが、今回は「アブ・シンベル」「フィラエ」という2つのエリアの遺跡群が世界遺産に登録されています。
後述では2つのエリアの遺跡群の詳細を解説していきます!
アブ・シンベル神殿
アブ・シンベル神殿は古代エジプトにおける最大級の神殿であり、プトレマイオス朝時代に建てられたエジプトの歴史を語る上で外すことのできない重要な神殿です!
また後述の「世界遺産創設のきっかけとなった大神殿の移築」で詳しく解説しますが、世界遺産の創設に大きく影響した神殿でもあります。
アブ・シンベル神殿の歴史
アブ・シンベル神殿の内部
アブ・シンベル神殿が建造されたヌビア地方が栄えた理由は、下記の2点に大きく分けられます。
- 金などの鉱物の産地
- エジプトとアフリカの奥地との交易の中継基地
次第にエジプトの王たちは南下してヌビア地方を統治しました。
これにより、ヌビア地方はエジプトの領土となったわけです。
そして紀元前1260年頃、エジプト第19王朝期の王であるラメセス2世は、ヌビア地方のアブシンベルという町に巨大な神殿を建造することにしました。
この神殿こそ、現在見られるアブ・シンベル神殿です!
しかしここで問題が発生します。
アブ・シンベル神殿の建造予定地には巨大な神殿が建てられるほどの平坦な土地が無かったのです!
ナイル川沿いには高い岩山がいくつもあったため、その岩山を利用して神殿の建造をすることに決めたのです!
岩山を利用することで、広い平坦な土地が必要ではなくなります。
それだけでなく、平地から全て建造するよりも、岩山を削って神殿の形に近づけていった方が、建造年数も大きく削減することができるのです。
なお、岩山を削って神殿を建造したことからアブ・シンベル神殿は「洞窟神殿」とも言われています!
こうしてアブ・シンベル神殿の完成により、ラメセス2世は国王の力を世界に知らしめることに成功しました。
アブ・シンベル神殿の魅力
エジプト国内を縦断するように流れる大河「ナイル川」
前述の「アブ・シンベル神殿の歴史」でも解説したように、アブ・シンベル神殿は岩山を削って建造された大神殿です。
このように岩山を削って建造した神殿は比較的珍しく、アブ・シンベル神殿の魅力の一つであることは間違いありません!
さらに他にも下記のような魅力ポイントが挙げられます。
- 神殿の正面口に4体のラメセス2世の座像が切り出されている!
- 神殿内の大列柱にラメセス2世の像が彫られている!
- 神殿の奥まで進むと「太陽神ラー・ホルアクティ」や神として扱われたラメセス2世などの巨大な像が置かれている!
特に注目すべきポイントとしては、細かく設計された神殿内部です!
まず内部の壁には、カデシュの戦いでのラメセス2世の姿が繊細に描かれています。
さらに神殿の奥にある像は、なんと“ラメセス2世が生まれた日“と”王に即位した日“の年2回のみ、日の出の太陽光線によって照らし出されるようになっているのです!
また、ラメセス2世は最愛の妻であるネフェルタリのために、アブ・シンベル神殿の北120mほどのところにも神殿を建造しました。
こちらの神殿もアブ・シンベル神殿と同様にラメセス2世の像が4体彫られています。
フィラエの遺跡群
フィラエ地域にある遺跡群の中で最大規模を誇る「イシス神殿(フィラエ神殿)」
どうしてもアブ・シンベル神殿が注目されがちですが、世界遺産登録名称にも書かれているように、フィラエにも歴史的に価値のある神殿群が存在します!
フィラエの遺跡群はフィラエ島というナイル川内にある島にあります。
そのため360度水に囲まれており、アブ・シンベル神殿とはまた違った遺跡の雰囲気を感じることができます。
フィラエの遺跡群の歴史
フィラエ島に遺跡群が築かれ始めたのは紀元前4〜3世紀頃です。
数多くの遺跡が築かれましたが、その中でも特に有名な遺跡が「イシス神殿」です!
“イシス“とは、古代エジプトの女神イシスをまつる神殿であることからその名が付けられました。
なお現在は、イシス神殿があるフィラエ島の名前を取って「フィラエ神殿」と呼ばれることが多く、世界的にもフィラエ神殿という名前で広く知られています。
イシス神殿の特徴としては下記などが挙げられます。
- 「主神殿」「ハトホル神殿」「塔門」などで構成されている!
- 壁面にはイシスやハトホルなどの女神の彫刻が施されている!
- ローマ皇帝に気に入られた影響で、神殿内にはキリスト教がローマ帝国の国教とする政策を完了したことが記されている!
カラプシャ神殿という別の神殿は、キリスト教の一派であるコプト教の聖堂として使用された歴史があります
つまり、古代エジプトはキリスト教との繋がりが深かったことを意味しているのです!
フィラエの遺跡群の魅力
フィラエの遺跡群はナイル川越しに見ることができる
フィラエの遺跡群の魅力は主に下記が挙げられます。
- 島中に特徴が異なる遺跡が点在している!
- 周囲がナイル川の水域であるため独特な雰囲気を体験できる!
- 古代エジプトとキリスト教の歴史を同時に見ることができる!
アブ・シンベル神殿はラメセス2世にまつわる像や彫刻が非常に多いのが特徴です。
一方でフィラエにある遺跡群は、女神イシスをはじめ、プトレマイオス12世、女神ハトホル、ホルス神など、様々な神や王の像・彫刻があります!
世界遺産創設のきっかけとなった大神殿の移築
アブ・シンベル神殿はナイル川のすぐ隣に建てられている
実は、アブ・シンベル神殿やフィラエの遺跡群は、世界遺産が創設されるきっかけとなった重要な文化財なのです!
アブ・シンベル神殿などと大きく関係している出来事とは「アスワン・ハイ・ダムの建設」です!
このダム建設の出来事があったからこそ、文化財を保護する重要性が改めて認識されました。
その文化財保護の施策として、“世界遺産“という考えが誕生したのです!
なお、「ユネスコ」や「世界遺産条約」の詳細に関しては下記で解説しています。
合わせて読みたい!【ユネスコとは?】創設目的や世界遺産との関係を簡単に解説!合わせて読みたい!【世界遺産とは?世界遺産条約とは?】世界遺産の超基礎情報を小学生でもわかるように解説!アスワン・ハイ・ダム建設の目的
ナイル川上流に巨大なダムを建設することは、エジプト政府によって決められた大規模な国家プロジェクトでした。
すでにナイル川にはイギリス占領下時代に造られた「アスワン・ダム」というダムがありましたが、下記の目的を達成させるためには既存のダムよりさらに上流に巨大なダムを建設する必要があったのです。
- ナイル川の氾濫を防止する。
- 安定した電力を供給する。
しかしここで大きな問題が発生しました。
ダム建設予定地の近くには、アブ・シンベル神殿をはじめとする古代エジプトの貴重な遺跡群が建造されていたのです!
そしてもしダムの建設が実行されると川の水位が上がるため、遺跡群が水没してしまう懸念がありました。
大神殿の移築方法とユネスコの動き
エジプト南部の街アスワンの景観
アブ・シンベル神殿をはじめとする遺跡群を保護するためにユネスコは動きます。
その具体的な動きとは、「ヌビアの遺跡群の救済を呼びかけるキャンペーン」の実施です!
このキャンペーンは、ユネスコという大きな国際機関が呼びかけたこともあり世界中で注目を浴びました。
救済事業の具体的な流れは以下の通りです。
- 遺跡を切断して小さなブロックをいくつもつくる。
- できたブロックを既存の場所から西へ210m、64m高い場所に運ぶ。
- 運び終えたブロックを元の遺跡の形に戻るように積み上げる。
全ての工事が完了したのは、工事開始から4年後の1968年です。
こうして歴史上初の試みとも言える巨大遺跡の移築工事は無事完了し、世界中に報告されました。
同時に文化財の保護に対する考え方が大きく変わり、世界中の文化財の保護する体制を整えるきっかけになったのです!
そしてこの遺跡の救済事業が大きな反響を呼び、工事が完了した4年後の1972年に世界遺産条約が採択されることになりました!
ちなみにアブ・シンベル神殿だけでなく、フィラエ島にある遺跡群も同様に移築工事がされました。
もともと遺跡があったフィラエ島から、近くのアギルキア島という別の島に移す工事内容です。
しかし今ではこのアギルキア島がフィラエ島と呼ばれています。
本日の確認テスト
(「世界遺産検定」の概要についてはこちらの資料を参考にしてください)
3・4級レベル
『アブ・シンベル神殿(ヌビアの遺跡群)』が移築するきっかけとなった出来事として正しいものはどれか。
- スーダン国境付近での紛争が激しさを増し被害を受ける恐れがあった。
- 遺跡群近辺で経済特区の整備がされる計画が上がり歴史的な景観が失われる恐れがあった。
- 地球温暖化による干ばつが激しくなり遺跡群に被害が出る恐れがあった。
- 大規模なダムの建設により河川の水位が増し水没する恐れがあった。
④
答え(タップ)>>2級レベル
ラメセス2世率いるエジプトが繰り広げ、アブ・シンベル神殿内部にもその様子が描かれている戦いの名称として正しいものはどれか。
- コリントスの戦い
- ディアドコイ戦争
- ポエニ戦争
- カデシュの戦い
④
答え(タップ)>>1級レベル
『ヌビアの遺跡群:アブ・シンベルからフィラエまで』の説明として正しいものはどれか。
- アブ・シンベル神殿内部にはモザイク画や化粧漆喰による装飾が鮮やかに施されている。
- イシス神殿はローマ皇帝たちに気に入られ、キリスト教がローマ帝国の国教とする政策が完了したことが記されている。
- アスワンは豊な水と緑に恵まれた穀倉地帯として発展した。
- ラメセス2世は王妃ネフェルタリのためにフィラエに大規模な神殿を築いた。
②
答え(タップ)>>まとめ
- 世界遺産の登録範囲は「アブシンベル+フィラエ」に点在する遺跡群!
- アブ・シンベル神殿を中心にラメセス2世によって多くの神殿が築かれた!
- アスワン・ハイ・ダムの建設によって一時は遺跡群が水没しかけた!
- ユネスコ主体の移築計画によって水没の危機から脱した!
- ヌビアの遺跡群(アブ・シンベル神殿)の保護政策が世界遺産誕生のきっかけとなった!
おまけ:アブ・シンベル神殿のプチ観光情報
アブ・シンベル神殿やイシス神殿(フィラエ神殿)を訪れる場合は、アスワンという街を拠点に観光するのが一般的になります。
またアブ・シンベル神殿の観光の場合は「アブシンベル空港」という小さな空港があるため、アスワンを経由せずに訪れることも可能です!
- 成田 ⇨ カイロ ⇨ アスワン(フライト時間:約15時間30分)
- 成田 ⇨ カイロ ⇨ アブシンベル(フライト時間:約16時間00分)
- 成田以外の空港 ⇨ ドバイ ⇨ カイロ ⇨ アスワン(フライト時間:約18時間00分)
- 成田以外の空港 ⇨ ドバイ ⇨ カイロ ⇨ アブシンベル(フライト時間:約18時間30分)
ただし上記のフライトには少し注意点があります!
- エジプトの情勢によっては直行便の就航が中止になることが考えられます。
- 2020年時点では直行便は週1便しかありません。
- アブシンベル行きのエジプト国内線の就航本数はあまり多くないため、アスワン経由になることが多いです。
上記の注意点を踏まえると、下記のスケジュールが一般的ですね。
日本 ⇨ ドバイ(他、中東諸国経由) ⇨ カイロ ⇨ アスワン(フィラエの遺跡群) ⇨ ツアーや公共交通機関でアブシンベルへ(アブ・シンベル神殿)
遺跡観光の拠点となるアスワンの街に着けば、フィラエの遺跡群(イシス神殿など)に関しては距離が近いため気軽に観光することができます!
しかしアブ・シンベル神殿を観光するとなると話は別です。
アスワンからアブ・シンベル神殿を観光する場合は、大きく下記の2つの方法に分けられます。
- アスワンにあるツアーデスクから現地主催ツアーに申し込む。
- 公共交通機関(バス)を利用して自力で行く。
アスワンにはアブ・シンベル神殿を訪れるツアーを主催している旅行会社がいくつかあります。
最も簡単なツアーの申し込み方法は、宿泊しているホテルで申し込むことです!
3〜5つ星ホテルであれば申し込みができることが多いですね。
一方で自力で訪れる場合は、アスワンから1日1本しか運行していないバスを利用することになります。
つまり、その日の唯一のバスに乗り遅れると次の日まで待たないといけないのです!
さらに、「アブ・シンベル ⇨ アスワン」のバスはお昼過ぎに運行している1本しかないため、アブシンベルに滞在できる時間が約2時間と短い点も気になるところですね(苦笑)
まとめると下記のようになります。
- 運が良ければカイロまでの直行便を利用できるが、基本的には中東諸国を経由するフライトスケジュール!
- フィラエの遺跡群はアスワンの街から気軽に観光できる!
- アブ・シンベル神殿に行くにはアスワンでツアーに申し込む or ローカルのバスを使って自力で行く!
- 安心&確実に訪れたい場合はツアーに参加する!
- とにかく費用を押さえたい場合はバスを使って自力で訪れる!
参考文献・注意事項
- 当記事の内容は「世界遺産検定1級公式テキスト<上>」と「世界遺産検定1級公式テキスト<下>」を大いに参考にしています。
- 当記事は100%正しい内容を保証するものではありません。一部誤った記載が存在する可能性があることをあらかじめご了承ください。